蛯名正義騎手(51)は今週末の騎乗を最後に調教師へ転身する。中山記念(G2、芝1800メートル、28日)ではゴーフォザサミット(牡6、藤沢和)に騎乗予定。引退を前に同期の武豊騎手への思い、JRA・G1初勝利(96年バブルガムフェロー)のコンビで、ラスト重賞で騎乗チャンスを与えてくれた藤沢和師への感謝など胸中を激白した。【取材・構成=井上力心】

 

<迫る騎手引退>

蛯名騎手の手綱さばきも今週が見納めになる。気持ちを前面に出して、馬を鼓舞する豪快なアクションは競馬ファンを魅了してきた。日を追うごとに現実味を増してきた「引退」の2文字。「まだ実感はないけど想像するに寂しくなるんだろうなと。いろんな競馬場で乗ってここで乗るのも最後なんだなとか、(武)豊と乗るのもこれが最後なんだなとか。少しずつかみしめながら1つ1つ自分の中で区切りをつけている」と素直な胸中を明かす。

 

<武豊への思い>

競馬学校時代から数えると付き合いは40年近く。切磋琢磨(せっさたくま)してきた同期の武豊騎手は大きな存在だった。「乗り役になる前からずっと一緒でね。いろんなことを互いに高め合ってきて。彼に引っ張ってもらった部分もあるし、彼がいたから頑張れた。彼はまだまだ乗るだろうし、もっと頑張ってもらいたい。自分も新たなステージで頑張りたい」。この絆を「腐れ縁だから」と親しみを込めて表現し、騎手と調教師と互いの立場が変わろうと、切っても切れない縁だ。

 

<夢のタッグへ>

騎乗が見られなくなるのは残念だが、開業後に管理する馬に武豊騎手が騎乗する姿はファンも心待ちにするだろう。「まだ何とも言えないけど、ファンが喜んでくれるのなら自分の管理馬に彼が乗ってくれるようになればいいなと思う。競馬が盛り上がれば一番いい」と話し、ファン、そして競馬のさらなる発展のため夢のタッグ結成に意欲的だ。

 

<恩師への感謝>

最後のJRA重賞騎乗となる中山記念は藤沢和厩舎のゴーフォザサミットに騎乗予定。師が「蛯名騎手に花道をね」とコンビ再結成に一役買って実現。「乗ったことがある馬がいいだろうと先生が言ってくれて。先生には初G1(96年天皇賞・秋をバブルガムフェローで優勝)を取らせてもらって、あれで(飛躍の)きっかけをつくってもらった。調教師になると決めてからもうちに来て勉強すればいいと気を使って声を掛けてくれたし、とてもありがたいなと思う」。精神的支柱でもあった師への感謝の思いも胸に、全力で騎乗する構えだ。

 

<愛馬で頂点を>

34年前、同じ中山でデビューし、騎手人生がスタートした。12年ダービーはフェノーメノで鼻差2着、99年凱旋門賞はエルコンドルパサーで半馬身差2着と、ホースマンの夢、日本競馬の悲願達成にあと1歩まで迫った。「もちろんファンも(騎手としての制覇を)応援してくれたけど、できることできないことはあるし、ここまで頑張ってきた結果だから。新たなところで頑張れればと思う」。夢の続きは、近い将来管理する愛馬とともに。トレードマークの渾身(こんしん)の騎乗を全うし、新たなステップを踏み出す。

 

◆蛯名騎手の通算成績(22日現在) 87年3月1日の初騎乗からJRA通算2万1171戦2539勝で勝利数は歴代4位。JRA重賞129勝(うちG1・26勝)。