男子テニスで、元世界4位の錦織圭(31=日清食品)はトップ10に返り咲けるのか。現在、39位だが、完全復活の可能性を占える1戦があった。錦織が14~16年と3年連続決勝に進み、2度の優勝を飾ったバルセロナオープン3回戦で、同大会11度の優勝を誇る3位のラファエル・ナダル(スペイン)と対戦した。

20年9月に右肘のけがから復帰し、トップ10との対戦は4度目だった。しかし、赤土でのナダルは、どんな相手よりも特別だ。赤土の最高峰、全仏に13度の優勝。赤土で500試合近く戦い、勝率は9割を超えている。

今年は背中の故障で、サーブに課題を抱える。まだ同大会前まで優勝がないのも、それが理由だろう。ただ、その部分を割り引いても、ナダルと対戦することは、今の錦織にとって価値があると言えた。

結果はフルセットでの敗退。手応えより「良かったという気持ちはそこまでない。(好調が)2、3セット続かない。何でかな」と、悔いの方が大きかった。2回戦終了後に「今は、ある程度の自信はある」と勝てる算段も踏んでいただけに、健闘よりも悔しさの方が大きい。

錦織が言う「好調が続かない」というのは、何もセットだけに限らない。復調後、2~3ポイントの間に、いいプレー後に突然、ラリー2~3本目で何でもないミスが出る。簡単に言えば、まだ安定しないのだ。錦織も「それにつきる」と認める。

プロに成り立ての錦織を思い出した。「尊敬しすぎた」という独特の言い回しで、強豪と対戦するときのやりにくさを表現した。自分の力を信じられず、できる以上のことを試み、簡単なミスにつながる。それを、そのような言葉にした。現在の状況は、その時と似ているかもしれない。まだ、完全な自信がないのだ。

それでも、第2セットで見せた攻撃と守りは、日本が生んだ“錦織圭”という最高のアスリートを感じさせるのに十分だ。第2セット以降、頭脳と心身すべてをフル回転させ世界に挑む姿は、まだまだ多くの人の心をつかんで離さない。

ナダルも、試合後、次のように話している。「ケイは十分にタフだった。トップ10に戻れるかって? 2セット以降のプレーができれば、答はイエスだ」と復活へ太鼓判を押す。

両者が初めて対戦した08年ウィンブルドン前哨戦アルトワ選手権3回戦。ナダルは、113位だった錦織の可能性を聞かれ「トップ10に入れる才能がある」と話した。そして、それは実現した。今は、ナダルの言葉を信じよう。【吉松忠弘】