3年ぶり10度目の優勝を飾った帝京大は、なぜ、再び頂点に立てたのか? 

21-14で迎えたハーフタイム。ゲーム主将を務めたフランカーの上山黎哉(4年=大阪桐蔭)は、冷静な口調で仲間に伝えた。

「グレーなプレーをなくそう。クリーンにやろう」

前半のボール争奪戦。上山は「中途半端なところでいっていた」と振り返る。判断のミスは反則となり、自分たちの首を絞める。

「チャレンジできるところは、チャレンジしよう」 

そう言葉をかけ、後半は大切にしてきた部分を徹底した。前半9個だった反則は、後半で6個に減った。その多くは勝負が決した終盤だった。反則をしないことで、流れを引き寄せた。

「曖昧をなくす」

「ペナルティー5アンダー(反則1試合5個以下)」

この意識が、全勝の理由の1つだった。反則数は昨季に比べ、1試合平均3・5個減らすことができた。

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◆昨季の対抗戦反則数

〈第1戦〉対日体大 8個

〈第2戦〉対筑波大 9個

〈第3戦〉対青学大 11個

〈第4戦〉対早大 14個

〈第5戦〉対立大 9個

〈第6戦〉対明大 16個

〈最終戦〉対慶大 11個

※7試合合計78個。1試合平均11・1個

◆今季の対抗戦反則数

〈第1戦〉対筑波大 6個

〈第2戦〉対青学大 9個

〈第3戦〉対立大 2個

〈第4戦〉対日体大 4個

〈第5戦〉対早大 5個

〈第6戦〉対明大 12個

〈最終戦〉対慶大 15個

※7試合合計53個。1試合平均7・6個

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この春、プロップ細木康太郎主将(4年=桐蔭学園)はリーダー陣と話し合いを重ねた。

「去年、なんで負けたんだろう?」

手痛い黒星を喫した昨季の早大、明大戦。帝京大が喫した15個前後の反則が目に留まった。それは別で首脳陣が考えていた“敗因”とも重なった。

改善を目指し、取り入れた合言葉の1つが「2歩バック」だった。

防御時、何度も敷かれるのが「オフサイドライン」。例えば相手の攻撃で食い込まれた際、オフサイドの位置にいる選手は、基本的にオフサイドラインの後方に戻ることが求められる。「2歩バック」は「オフサイドラインから、さらに2歩下がろう」を意味する。NO8奥井章仁(2年=大阪桐蔭)はこう説明する。

「オフサイドラインのギリギリではなく、どのレフェリーから見ても『きちんと下がっている』と思われる位置まで下がる。それも『曖昧をなくす』の1つです」

言葉では簡単だが、実践は難しい。体力的に厳しい場面でも、余分に2歩、下がらなければいけない。

主将の細木には、チーム内での意識の浸透を実感した場面があった。11月3日早大戦。優勝争いのライバルに29-22で競り勝った。反則数は「5」。1年前の「14」から9個減らした。

「後で映像を見返しても、きちんと2歩下がっていました。それに結果がついてきた。その時、チーム内で『(さらに)もう1歩下がろう』という声が出ました。春は『やろう』と、口だけの部分もあった。でも、早大戦後はできていても、そこに満足しなかった」

目に見えるフィジカル面の強さだけではない。今季のこだわりは、細木が掲げる究極の目標につながる。

「『チャンピオンチームになろう』と言っています。ボクシングでも(世界ランク)1位、2位、3位の上に『チャンピオン』がいる。『チャンピオン』は、ただの1位じゃない。僕たちのプレー、立ち振る舞い、会場に行くまでの道のりでの姿…。ベンチ、スタンドの部員、みんなが『チャンピオン』になります」

全国大学選手権の決勝は22年1月9日。真の王者への歩みは続く。【松本航】