18年平昌五輪男子銀メダル宇野昌磨(24=トヨタ自動車)が自分に打ち勝った。101・88点を記録して2位発進。首位の羽生結弦(ANA)とは9・43点差。わずか6日前となる18日の練習中に右足首を負傷。23日とこの日の公式練習で苦しんだジャンプを、本番で3本そろえた。五輪代表3枠入りへ大きく前進し、26日のフリーに向かう。

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右拳を力いっぱい、振り下ろした。宇野はたくましかった。オーボエの心地よい音色に乗り、踏み切った高難度の4回転フリップ。輝く氷に降り立った瞬間、音をかき消すように拍手が響いた。不安が消えたのは、わずか20分ほど前。6分間練習では3本目の挑戦で降り「多分、跳べるんじゃないか」と自分を信じた。

そこまでは揺れていた。6日前、同じジャンプの着氷時に右足首をひねった。「試合中も痛みはなかった」と言い訳はしないが、痛みの残像はあった。前日も当日の午前練習も、空中で回転が抜けた。自らが世界で初めての成功者となった4回転フリップ。その代名詞をサルコーに変えることも考えた。本番前のホテル。厳しい渡航制限がありながらも、在留資格を持ち、遠くスイスから再入国者として来日してくれたランビエル・コーチが「サルコーでも、フリップでもいいよ。どっちでも君はできるよ」と背中を押してくれた。

宇野 「できるんだったらフリップがいいな」と吹っ切れました。万全な調子であったなら、今日の演技は悔やむべき点の方が多い。ただ「もっと悪い演技をしてしまうかも」と思っていた。試合での自分は褒めてあげたいけれど、練習での自分は改善したいです。

4年前の立ち位置は違っていた。故障で羽生が欠場し、優勝の大本命と位置付けられた。2連覇で平昌五輪切符を手にしたが「自分の気づかないところで『追われる立場』と意識をしていた」。結果的に他を圧倒したが、ジャンプでミスが続き「今日だけじゃなく(物足りない演技が)続いてしまっているのが情けない」と悔しさがにじんだ。

平昌五輪銀メダルからの道は、平たんではなかった。コーチや拠点が変わり、19年には5年ぶりのGPファイナル不出場も経験した。それでも日本を代表する選手の1人として、この舞台に立っている。背中を追う羽生、国内での練習時に刺激を与え合う6歳下の鍵山…。ライバルとの競演を楽しむ場が、ここにある。

宇野 どれだけ時間がかかっても、明日や、明後日の試合のギリギリまで諦めない。貪欲に考えていけば、練習してきたことは体が覚えていると思います。

強く真っすぐな心が、宇野を支えている。【松本航】