昨季の世界選手権を制した坂本花織(22=シスメックス)のエンジンがかかった。今季自己最高の75・86点を記録して首位発進。決めポーズから起き上がりながら右拳を振り「安堵(あんど)しかない。『やり切った』というより『よくやった』という感じでした」とほほえんだ。

ギリギリでエンジンがかかった。開幕前日の7日、公式練習を終えると「どうも調子が上がりきらないというか…。エンジンだけかかっていて、マジでもう『スコーンッ、スコーンッ』って感じ。『頼むからやってくれ』と自分でも思う」と自虐的に笑った。この日午前の公式練習でも、曲をかけての通しで得点源の3回転フリップ転倒。だが、本番でスピン2つを終えると、肝になるフリップ-トーループの連続3回転を跳びきった。

「体力的に余裕があって『もしかしたらワンチャン(ス)いけるかも』と思って、思い切りやりました」

ハイレベルな競演で、きっちりとトップに立った。

昨季は北京五輪(オリンピック)個人、団体で銅メダルを獲得。世界選手権で頂点に立った。充実したシーズンと対照的に、今季はもがきながら進んできた。それでも貫く強さがある。

「良くなる時は何のきっかけもなく、突然来る。それを待ってあげたい。それが来たら波に乗れると思うので、乗れる準備をする。その日を待って、必死にもがきながら、やるだけかなと思います」

輝かしい実績が備わっても、もがくことができる。

「今シーズンはずっと自分に必死で、周りを見ている余裕はないですけれど、自分がベストの演技をして、他の人もベストな演技で戦うのはすごく楽しい。それぞれの選手のモチベーションも上がると思います」

2位の三原舞依(シスメックス)とは1・28点、3位ヘンドリックス(ベルギー)とは1・62点、4位の渡辺倫果(法政大)とは3・28点差。ファイナルにふさわしい競り合いの中心には、歯を食いしばる坂本がいる。(トリノ=松本航)