陸上男子100メートルの日本記録10秒00が樹立されてから、13日で丸10年がたつ。98年12月13日、アジア大会(バンコク)の準決勝で、伊東浩司氏(38=甲南大監督)が9秒台にあと1歩まで迫って以来、記録は停滞したまま。この間、世界記録は、北京五輪3冠のウサイン・ボルト(ジャマイカ)により、9秒69まで進化した。10年の節目のこの日、伊東氏は「現在の環境ならすぐにでも9秒台は可能なはず」と指摘、後輩たちの奮起を促した。

 あの日から日本記録は止まったまま。80年代は4度、90年代は7度も塗り替えられたが、10秒00が高いカベになり続けている。

 伊東氏

 1~2年で破られると思っていました。現役をやめてからも、2~3年で破られるだろうと。そのころは、破られてほしくないと思ったけど、今はそういう気持ちはまったくないです。

 9秒台は、難しいことではないはずだという。

 伊東氏

 今の競技力だったら、破らなければいけない。日本選手権では風を調整してもらっているし、スパイクも10年前よりもずいぶん良くなった。条件が整っているので、国内では(9秒台が)出そうな気がします。来年にも?

 そう思います。末続と塚原には可能性があります。

 伊東氏は現役時代、試行錯誤の連続だった。速く走るには太ももを上げる、という時代に、競歩をヒントに、すり足のように走った。血尿が出て失敗したが、高地トレーニングも試した。海外転戦にも挑んだ。尻を突き出して胸を張る、黒人のような姿勢を意識したりもした。

 伊東氏

 同じような取り組みをやっても9秒台は出る。今の選手は、タフさがない。(世界大会よりラウンドが少ない)日本選手権で、なんで100メートルしか出ないんだろうと思う。冒険心が少ないですね。

 厳しい指摘は、後輩へのエールでもある。

 伊東氏

 9秒台を目標にしていてはファイナリストになれない。ファイナリストにこだわってモチベーションをもてば、なれる可能性は若干ある。実力がついたら記録は絶対に出ます。

 その日が来るのを、日本最速男は静かに待っている。