<スキー:フリースタイル世界選手権>◇最終日◇8日◇福島・猪苗代町、リステルパーク

 女子モーグルの日本勢が、大躍進した。デュアルモーグルが行われ、上村愛子(29=北野建設)が優勝。前日のモーグルに続いて、2冠を達成した。決勝で上村に敗れた伊藤みき(21=中京大)は準優勝を果たし、10年バンクーバー五輪代表に内定。98年長野五輪金メダルの里谷多英(32=フジテレビ)は4位に食い込み、復活をアピールした。五輪本番ではメダルを独占する可能性さえみえてきた。

 世界舞台での、日本人による決勝が実現した。予選の後、決勝トーナメント方式で行われるデュアルモーグル。2冠がかかる上村と初Vを狙う伊藤。上村はスタートで出遅れたが、中盤の滑りで追い抜いた。2度、エアは着地が乱れたが、勝敗に影響なし。20-15で、女王の貫禄(かんろく)を示してみせた。

 前日の優勝で五輪内定を決めた上村は、心身の疲労とも闘っていた。「みきの丁寧な滑りは驚異で、私はミスが多い。いい滑りをしないとと思って、気合を入れました」。後輩の頑張りが、刺激になった。滑った後は、抱き合ってたたえ合い、一緒に表彰を受けた。「表彰台に1人で上っているのではなく、みきもノブ(西伸幸)もいて、みんなで日の丸をパタパタ~って振れたのが、本当にうれしいです」。

 2位の伊藤は、2月のW杯で初めて3位に入ったばかり。安定した滑りで勝ち上がり、準決勝で里谷と当たった。勝った方が五輪代表の内定を得られるレースも、確実にまとめた。「予選を通過した後、愛子さんと『決勝で会いましょう』と言ったのが、実現できて良かったです」。目は潤んでいた。「ちょっと気が緩むと、涙が出そうなので、今は緊張しています」と強がった。

 里谷は4位で復活をアピールした。伊藤に負けた後、3位決定戦はW杯総合ランク1位のカーニー(米国)と対戦。1点差の接戦だった。「準決勝が終わった後、(日本人の)3人でワンツースリーかなって言ってたんですけど。(表彰台を)独占したかったし、私も3位に入りたかった」と悔やんだ。今大会での五輪内定は逃したが、まだチャンスは残されている。

 デュアルモーグルは五輪種目ではなく、有力選手のミスが相次いだ事情もあるが、1、2、4位は価値がある。上村、里谷の新旧女王に加え、21歳の伊藤が力をつけた。個人種目だが、日本代表として世界を転戦するため、チームとしての相乗効果が生まれている。

 全日本スキー連盟の林フリースタイル部長は言う。「長野やソルトレークシティーの時、愛子は多英を師と仰ぎ、後をついていった。今は私がリードしていくんだという気持ちでいる。多英も昔と違って、チームの和を崩さない。今のコーチ陣に溶け込むように努めています」。

 今大会の起爆剤になった上村は、すでに五輪までの強化プランを頭に描き始めた。「今年も後半に調子が尻上がりだったけど、五輪は2月11日あたりなので、もう少し早めに調子を上げていかないといけない」。伊藤は「スピードが課題なので、ターンを根底から学んでいきたい」と言った。

 ベテランの里谷は、心に火が付いた。「来年、バンクーバーで見ててください。頑張ります」と4度目の五輪を視野に入れた。年齢やキャラクターは3者3様だが、世界のトップを争える力がある点は同じ。五輪の女子モーグルは、10年2月13日。頂点を争える戦力が整ってきた。【佐々木一郎】