金妍児が泣いた。国際オリンピック委員会(IOC)は6日、南アフリカ・ダーバンでの総会で、2018年冬季五輪開催地に韓国の平昌(ピョンチャン)を選んだ。ミュンヘン(ドイツ)アヌシー(フランス)との争いで、1回目の投票で過半数48票を上回る63票を獲得。広報大使を務めたバンクーバー五輪フィギュアスケート女王の金妍児(20)の力で、過去2大会連続決選投票で敗れた屈辱を晴らした。韓国初の冬季五輪で、アジアでは72年札幌、98年長野に続き3度目。

 金の涙が至上の喜びを物語っていた。平昌が「三度目の正直」を勝ち取った。IOCのロゲ会長が「ピョンチャン」と読み上げると、歓喜に沸いた。過去2度の落選で学んだ教訓を元に「根気」「忍耐」の言葉を掲げて挑んだ。アジアの冬季競技に「新たな地平線」を切り開きたいというビジョンと熱意で、IOC委員を説き伏せた。10年冬季五輪は3票差、14年は4票差と、ともに決選投票で僅差で敗れてきた悔しさを、圧倒的な差で晴らした。

 新しい招致の「顔」が幸運の女神となった。10年バンクーバー五輪女王の金が広報大使として活動。5日にはダーバンのアイスリンクで地元スケーターと交流して笑みを振りまいた。プレゼンテーションでは韓国の競技力が向上したことなどを身をもって説明した。金メダルに輝いた10年大会は、平昌が最初に立候補した五輪。「勝ってほしかった。10年大会が私の最初の五輪になると思っていたから」と振り返るほど、特別な思いがあった招致活動を、自らの手で成し遂げた。

 アジアの冬季五輪は札幌、長野以来で、韓国では初開催になる。歴史の浅さを補うようにスキーのジャンプ台を建設するなど、13会場のうち既に7会場を完成させた。競技施設が片道20分で行き来できる2つの会場群に分かれ、10会場が選手村から10分以内というコンパクトさは評価が高い。ソウルとは約50分の高速鉄道で結ばれる予定だ。

 政府は施設整備に5億ドル(約400億円)の投入も発表。李明博大統領もロビー活動の先頭に立ち、国の支援が際立った。努力と熱意、そして女王のほほ笑み。韓国が泣いて、最後に笑った。

 ◆平昌(ピョンチャン)

 韓国北東部の江原道に位置する山あいのリゾートで、人口約4万5000人。江原道は南北軍事境界線を挟んで北朝鮮にもまたがり、韓国ドラマ「冬のソナタ」の撮影地としても知られる。ソウルから東に車で約3時間。豊かな自然と韓国有数のゴルフ、スキーリゾートを目当てに多くの観光客が訪れる。過去に99年冬季アジア大会やアルペンスキーのW杯などを開いている。日本との時差はない。