<女子レスリング:世界選手権>◇28日◇カナダ・ストラスコナカウンティ

 16年リオデジャネイロ五輪まで、連覇街道は止まらない。55キロ級の吉田沙保里(29=ALSOK)が4試合連続でフォール勝ちし、五輪を含む世界大会で前人未到の13連覇を果たした。五輪、世界選手権の連勝も最多の62となり、男子グレコローマン130キロ級で世界大会12連覇、61連勝を誇った「霊長類最強」のアレクサンドル・カレリン(ロシア)を超えた。五輪4連覇が懸かるリオ五輪を視野に入れ、13年世界選手権での14連覇挑戦も宣言した。

 文字通り「最強」の称号を、吉田は圧倒的な試合運びで手に入れた。02年の世界選手権で初優勝してから11年。1度も休むことなく走り続け、「霊長類最強」と呼ばれたカレリンを超えた。右手でガッツポーズし、栄監督と父の栄勝コーチに担がれて、満面の笑みで日の丸を掲げた。「カレリンの記録を抜けたうれしさでいっぱい。世界一になった実感が込み上げてきている。日がたてばうれしさが倍増すると思う」と喜んだ。

 準決勝で目が覚めた。初戦の2回戦、3回戦をフォール勝ちして迎えた、欧州女王シニシン(ウクライナ)との試合。第1ピリオド(P)をマット際で投げられて落とし、4年ぶりに敗れた5月のW杯の悪夢が一瞬、よみがえった。

 ここで、ロンドン五輪決勝で逆転勝ちした48キロ級の小原日登美の試合を思い出した。冷静さを保ち、片足タックルで第2Pを奪うと、第3P終盤には疲れた相手をマットに沈めた。決勝では若手のマルーリス(米国)を寄せ付けずにフォール勝ち。最後まで集中力を保ち続けて、前人未到13連覇と同時に、世界大会最多の62連勝も果たした。

 偉業達成まで「あっという間だった」という11年間。最初はカレリン超えを、そこまで意識していなかった。聞かれるたびに公言したのは「字になりそうなことを言えばいいかな」という“リップサービス”。だが、その行動が自らを駆り立ててきた。「『超えるために頑張らないと』って口に出したからには、成し遂げたい。言ったからには有言実行にしたいんです」。

 五輪決勝を争ったバービーク(カナダ)も、W杯で苦杯をなめたジョロボワ(ロシア)もいない。有力選手はほとんど休養を選んだが、吉田は違った。3連覇した五輪からちょうど50日。多忙を極めて、練習を積めたのは20日程度だった。それでも充実した気持ちが、番狂わせを狙う他国の若手をはるかに上回った。

 20代の有終の美を飾り「4年間頑張ろうという気持ちになっている。少し休むけど、来年以降も(連覇を)目指せるなら目指したい。外国選手から『また来ているの?』というムードを感じたけど、嫌がられても自分を通したい」。リオへの道がこの日、始まった。

 ◆吉田沙保里(よしだ・さおり)1982年(昭57)10月5日、三重県津市生まれ。3歳の時に父の指導でレスリングを始める。久居高-中京女大(現至学館大)-ALSOK所属。04年アテネ、08年北京、12年ロンドン五輪女子55キロ級3連覇。08年1月の女子W杯団体戦で負けるまで01年から119連勝を達成。家族は父栄勝さん(60)母幸代さん(57)兄勝幸さん(34)兄栄利さん(32)。アイドルグループNEWSの増田貴久の大ファン。156センチ。血液型O。

 ◆アレクサンドル・カレリン

 1967年9月19日生まれ、ロシア・ノボシビルスク出身。14歳のときにレスリングを始めて「人類最強」「霊長類最強」と呼ばれた。グレコローマン130キロ級で88、92、96年と五輪3連覇。世界選手権は89年から99年まで9連覇するなど、87年旧ソ連選手権決勝の負けから00年シドニー五輪決勝で敗れて引退するまで13年間無敗。連勝数は300超とされる。99年にはリングスの前田日明と対戦して判定勝ちを収めた。現役時は193センチ、134キロ。