<ラグビー国際親善試合:日本23-8ウェールズ>◇15日◇東京・秩父宮ラグビー場

 日本が歴史的大金星だ!

 世界ランク15位の日本は、SH田中史朗(28=パナソニック)のスピードある球さばきなどで、同5位のウェールズに23-8で完勝した。北半球最強決定戦の欧州6カ国対抗を12、13年と連覇している強豪相手に、13戦目にしてテストマッチ初勝利を挙げた。6カ国対抗所属チームからの勝利は、89年のスコットランド戦以来、24年ぶり2度目となった。

 日本を後押しするうなりのような声援が、ラグビーの聖地、秩父宮にこだまする。ノーサイドまで残り10秒。23-8の大量リードに、勝利を確信した2万1000人以上の観客が発するカウントダウンとともに、日本のフィフティーンが拳を突き上げた。

 最高気温30度、湿度70%と欧州勢には慣れない蒸し暑さに加え、ウェールズ代表は若手主体。それでも、テストマッチでの大金星にエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)は「選手を誇りに思う。最高の日。歴史をつくった」と胸を張った。

 166センチの小さな体が、強豪ウェールズを手玉に取った。SH田中は相手の穴を即座に見つけ、的確なパスワークで、安定したボールを味方に供給。いつもは冷静で笑顔が絶えない男が、勝利の瞬間、「代表でなかなか勝てなくて」と号泣した。

 今年、フッカー堀江とともに、南半球の世界最高峰リーグ「スーパーラグビー」に日本人として初めて参戦した。そこで鍛えた闘志で、まずはチームに火を付けた。前半5分。自陣ゴール前で田中のボールの奪い合いから、両チームが一触即発ムードに。押され続けていた嫌な流れに、田中は「ひきょうなことをしてきたら(それに)反応する」と「活」を入れた。

 日本は闘志あふれるタックルなどで耐え、前半を2本のPGで6-3とリード。後半4分に、両チーム初のトライを相手に許した。しかし、8分にCTBウィングがトライを奪い逆転。19分にFWブロードハーストがだめ押しのトライを挙げ、完勝した。

 「スーパーラグビー」では、ニュージーランド、オーストラリアの身長200センチ近い選手が相手だ。その圧力にも素早いパスワークと判断力が要求され、その経験がこの日も生きた。先発の平均身長は日本の182・6センチに対し相手は188・5センチ。それでも「スペースを見つけて、なるべく速く投げた」と、余裕の球さばきだった。

 8日の第1戦では、前半を11-7とリードしながら後半に逆転された。この日は「耐えることができたのが勝因」(田中)。当たり負けしないように、毎朝5時半からの体力トレーニングなどで、ジョーンズHCはフィジカルを鍛えあげた。その肉体で、小柄な体格でも世界の強豪と渡り合えることを証明した日本ラグビー。新たな歴史が、この日から動きだす。【吉松忠弘】

 ◆ウェールズ・ラグビー

 英国4協会の1つで、国際ラグビーボード(IRB)の創設メンバー。欧州強豪の6カ国対抗では、4カ国および5カ国時代を含め、最多の34回優勝を誇る。2位はイングランド32回。愛称はレッドドラゴンで、黄金期の70年代に「赤い悪魔」として恐れられた。その後低迷したが、昨年、今年と6カ国で2連覇した。主力15人は現在ブリティッシュ・ライオンズ代表として南半球遠征中。今回の来日メンバーに残る主力は2人だけ。W杯では87年の3位が最高となっている。

 ◆日本のスコットランド戦勝利(89年5月28日・秩父宮ラグビー場)

 CTB平尾誠二主将率いる日本は、SH堀越正巳、SO青木忍、WTB吉田義人らバックス陣に若手を起用。FWにはベテラン藤田剛、林敏之らを置き若手主体の相手に挑んだ。前半は吉田、林、CTB朽木英次のトライとFB山本俊嗣の2PGで20-6とリード。後半相手の猛攻にあうが、山本、WTBノホムリのトライで28-24で逃げ切った。就任直後の宿沢広朗監督(06年死去)は徹底した相手の分析と明快な作戦で勝利を呼び込んだ。明日17日は同監督の命日。