4月の出産を経て3季ぶりに復帰するフィギュアスケートの元世界女王の安藤美姫(25=新横浜プリンスク)が、ラストシーズンのショートプログラム(SP)を初披露した。東日本大震災の復興支援事業として、茨城県で21日に開かれた「プリンス・アイスワールド」にゲスト出演。「自分らしさ」を表現する演技でジャンプも跳び、目標のソチ五輪が控え、引退を表明している今季への手応えをつかんだ。ネーベルホルン杯(26日開幕、ドイツ)で初戦を迎える。

 ゴールドに輝く安藤が、スポットライトに浮かび上がった。ベージュを基調に金色を配した衣装でスローなバラードに乗り、滑り始める。試合で戦うため、ソチ五輪に出るために仕上げた作品。「今までのスケート人生を自分らしく描いた」という演技を観客の目に初めて刻んだ。

 「コーチに試合まで曲名は明かさないように言われている」と本人の希望はあったが、テーマは「今までも、これからも自分の道を歩いていく」。母として五輪出場を目指す25歳にはぴったりの選曲だ。

 この日跳んだのは、3つのジャンプ。冒頭のルッツはミスして1回転になった。本来は3回転ルッツとループの連続ジャンプ。リンクが通常より狭く、試合ではない照明も当たっていた。少なからず影響があったが、続く3回転サルコー、ダブルアクセル(2回転半)は鮮やかに着氷した。

 出産で筋力、体力が落ち、感覚を取り戻そうともがいてきた。8月下旬には「疲れているのかな」と弱気もみせていたが、直後の練習で3回転サルコー、今月3日には連続ジャンプに成功。急速な復調ぶりが手応えある演技につながった。

 今後はドイツに渡り、ネーベルホルン杯に備える。目標はソチに出るための最低技術点(SP20点、フリー36点)突破。この日の演技なら十分にクリアできる数字だ。その後は国内選考会である12月下旬の全日本選手権へ、予選の関東選手権、東日本選手権を戦う。

 「感触としては良かった。これからもっと良い作品になっていく」。持てる才能か、出産の影響をすでに感じさせない演技は驚異。滑る時間が長いフリーをこなす体力面での課題はあるが、スピード感や表現力に陰りはみえない。

 「失敗したのでやらないと。回転不足だけど立てたのは自信になる」。出演者1人1人が、1つの技を見せるアイスショーのフィナーレ。予定を変えて跳んだSP冒頭と同じ3回転ルッツには、元女王の意地と現在地がしるされていた。【阿部健吾】

 ◆安藤がソチ五輪に出場するには

 日本の女子シングルの枠は「3」。日本連盟は選手選考方法として、全日本選手権出場を最低条件とする。優勝で決定。2、3位は、GPファイナルの日本人最上位者と合わせて選考。それでも決まらなければ、同大会終了時点での世界ランク日本人上位3人、ISU(国際スケート連盟)シーズン最高スコアの日本人上位3選手から選考する。安藤は全日本出場に予選のブロック大会(関東選手権、東日本選手権)を突破する必要がある。同時に、全日本選手権終了時までにISUが定める当該年度の五輪出場への技術最低点の獲得も出場資格にしており、国際大会での突破が求められる。