<レスリング:世界選手権>◇11日◇タシケント◇女子53キロ級

 新階級でも「霊長類最強女子」!

 吉田沙保里(31=ALSOK)が、五輪と合わせて15大会連続世界一の偉業を打ち立てた。16年リオデジャネイロ五輪で女子が4階級から6階級に増え、今年から新区分に。55キロ級から53キロ級に変更しての世界舞台だったが、決勝でもソフィア・マットソン(スウェーデン)に6-0と完勝。3月11日にコーチでもあった父栄勝さん(享年61)を亡くしてから半年。50大会連続優勝も達成する最高の報告ができ、日本選手初の五輪4連覇へ視界良好だ。

 昨年はマットの横で指示を飛ばした父は、今年は両腕の中にいた。15度目の世界女王として上がった表彰台のてっぺん。父栄勝さんの遺影を高く掲げて、台に上った。

 吉田

 レスリングが人生なので、優勝できてうれしい。月命日でもある亡き父に優勝を報告したかった。ほっとしている。

 くも膜下出血による突然の別れから半年。「14」から「15」と記録を伸ばす途中で見舞われた悲劇を、孝行娘は乗り越えた。

 55キロと53キロ。わずか2キロの差でも、感覚にはわずかではないズレが生まれた。6月の全日本選抜選手権では、準決勝と決勝で当たった大学生2人に珍しく計6点を失点。「軽くなって動きも速くて戸惑いもありました」と苦戦した。

 それから4カ月弱。体重が軽くなった分、わずかに腰高になり、脚が動きづらくなることに気づいた。軽量級とのスパーリングを増やしてスピード対策を徹底した。この日は終始スムーズな脚さばきを見せる。

 初戦の2回戦は相手のタックルをかわし背後に回りフォール。準決勝では高速タックルがさく裂し、49秒でフォール勝ち。昨年と同カードの決勝でも、相手のタックルを見切ると、1分すぎに両足を刈って場外へ押しやり1-0と先制。第2ピリオドでは3分50秒過ぎに片脚タックルから尻もちをつかせて加点。勝負を決めた。優勝の瞬間は小さく拳を握っただけだった。

 マットには後輩が持つ遺影をぐっと握ってから上がった。生前、父は「名前のあるうちにやめろよ」「いいところでスパッとやめろよ」と口にしていた。30歳を超えて体力低下などで弱さをさらすより、最高潮で引退する。それが願いだった。確かに以前より体の疲れはたまりやすい。母幸代さん(59)も「痛いとか言うことが増えた」と指摘するが、決して試合では衰えを感じさせない。けん玉を練習に取り入れるなど、新境地にも意欲的だ。

 「リオ五輪まで気を抜かずに、もっともっと研究して強くなる」。吉田の「名前」には、まだまだ最強の称号がふさわしい。父の願いが現実になるのは、もう少し先となりそうだ。

 ◆吉田の15連覇

 五輪3連覇と世界選手権12連覇を合算。レスリングの女子は08年から五輪年も世界選手権が行われているため、年数では旧7階級制となった02年から、現階級制となった今年まで13年連続の世界一になる。08年北京五輪と12年ロンドン五輪の直前に敗れているが、いずれも団体戦で体重も2キロオーバーの変則試合。個人戦に限れば01年12月の全日本選手権準決勝で山本聖子に敗れて以来負けなしの184連勝。国内外で50大会連続で優勝を飾っている。