手負いの五輪王者が、滑る。ソチ五輪金メダリストの羽生結弦(19=ANA)がグランプリ(GP)シリーズ第6戦NHK杯(28~30日)の出場を決断した。今月上旬の同第3戦中国杯で全治2、3週間のケガを負ったが、26日に会場の大阪・なみはやドームで行われた非公式練習で気持ちを固めた。3位以上で進出が決まるファイナル(12月、スペイン)へ、体調を考えてショートプログラム(SP)の構成難度を下げる可能性が高い。

 痛みは残る。だが、戦えると判断した。羽生が初冬の大阪のリンクを滑る。

 午後5時半から会場で行われた非公式練習。主催者のNHK以外の報道陣には非公開となった時間、一滑り一滑り、感触を確かめた。1時間のうち約50分、氷上で体を動かした。ステップからジャンプ、そしてプログラムの中での動き。いつもの行程で、2種類の4回転ジャンプ、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も跳んだ。成功も失敗もあった。それもいつも通り。他選手と接触しそうになり、かがみ込む場面もあったが、思わず苦笑。その後、何度も笑顔が見られた。

 練習後に医師の問診を受けた。異常なしと判断され、結論を出した。「出る」。見守った日本連盟の小林強化部長は「予定通り出場することになりました」と本人の気持ちを代弁した。

 中国杯のフリー直前の6分間練習で閻涵(えんかん、中国)と激突したのは8日。頭部から流血したが、治療後に強行出場して2位に入った。9日に車いす姿で帰国して精密検査を受け、全身5カ所のケガで全治2、3週間と診断された。それからわずか17日-。

 体調は万全ではない。同強化部長は「両脚には多少の痛みは残る」と認めた。それでも、出るからには結果を残す。3位以上で自力出場が決まるファイナルでの2連覇へ、SPを「改造」する。オーサー・コーチは「後半の4回転ジャンプを前半に持ってくる」と明かした。昨季から進化を目指した今季は、基礎点が1・1倍になる後半に4回転トーループを跳ぶ挑戦をしてきたが、脚の状態を考慮した。演技冒頭に大技を持ってくることで、負担を減らし、確実性を増す。

 強行軍だが、無謀ではない。自分の状態を判断して、出場を決めた。この日は自らの口で決意を語ることはなかったが、今日の公式会見には出席する。心配するファンに直接思いを伝え、28日のSPに向かう。【阿部健吾】

 ◆羽生のGPファイナル進出条件

 3位以上で進出が決まる。羽生は中国杯2位で13点。現在のGPファイナル進出ラインの6位は20点。3位(11点)になれば合計24点で上位6人に入る。表彰台を外した場合は、今大会に出場する無良(15点)ボロノフ(13点)アボット(7点)の結果次第になる。6位(5点)以下では進出できない。<羽生の負傷経過>

 ◆11月8日

 フリー直前の6分間練習で、閻涵と大激突。体を強く打ち、顔から出血。棄権するかと思われたが、治療を終えると包帯姿で再びリンクへ。「オペラ座の怪人」のファントム役を演じたフリーでは5度のジャンプの転倒があったが、最後まで滑りきる精神力の強さをみせ、順位も2位に。

 ◆同9日

 国内で診察を受けるため、エキシビションを欠場して帰国。空港では車いす姿で、ファンに何度も頭を下げた。検査では、(1)頭部挫創(2)下顎挫創(3)腹部挫傷(4)左大腿(だいたい)挫傷(5)右足関節捻挫の5カ所のケガと診断。

 ◆同21日

 日本連盟の小林強化部長が「痛みはありますが、普通に歩くことは出来るようになったとのことです」と説明。代替選手は設けず、NHK杯直前まで本人の意思を待つ意向を示す。