ラグビー用具に注目する連載の第3回は「ボール編」。ワールドカップ(W杯)では95年第3回大会から、英ギルバート社のボールが公式球として使用され、今大会は表面積が増えるなど、形状が変わった。革の時代から現在の合成ボールに至るまで、ラグビーの進化とともにボールも変化している。

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今大会の公式球「シリウス」は、これまでよりボールの表面積が30%増えた。突起(イボ)を丸形から大小の星形にしたことによる。星形にすることで手に引っ掛かりやすく、ハンドリングがしやすくなった。

ギルバート社のボールを扱うスズキスポーツ代表取締役の鈴木次男氏は、この効果について語る。

鈴木氏 ラグビーはキックからハンドリングゲームに移ってきた。ラバー(ゴムの表面)は硬いと丈夫だが弾力性、耐摩耗性は落ちてすり減るのが早い。軟らかいと手触りがいいし滑りにくいが跳ねない。シリウスはこのバランスがよく、星形のイボもパスがしやすく、ノックオンしにくい。

ギルバート製のボールは、縫い目のところに空気を入れる穴がある。腹の部分にあいているものより、回転がぶれず、ラインアウトやキックの方向も安定するという。今大会の公式球は、昨年11月の日本代表対ニュージーランド戦でテストマッチ“デビュー”。日本代表SO田村優も「蹴りやすかったし、問題ないと思う」と好感触を口にした。

昔は形も素材も違った。18世紀初頭イギリスのラグビー校で始まったラグビー。ボールは当時工場が近くにあった靴屋のギルバート氏が最初に作ったとされる。最初は球体に近かった。

いつから楕円(だえん)形になったか記録はないが、1800年ごろには使用されていた。当時の得点方法はキックのみ(トライはゴールキックの権利を得るためのもの)。キックを上げるのに適した形として徐々に変化していった。

当時は4枚の牛革を用い、中には豚のぼうこうを入れ、管から人が吹いて膨らませていた。弾力性があり、70ヤード(約64メートル)以上飛んでいたという。1870年ごろにゴム製の空気袋と空気入れが開発された。ラグビーも変化し、ハンドリングに適した流線形になった。1892年に周囲の長さや重さが統一された。

1970年代ごろにサッカーで使用されていたマイター社製の合成ボールがラグビーでも使われ、ボール事情は大きく変わった。

鈴木氏 革ボールはチューブを入れ替えたり、水を吸って重くなったりと不便だった。合成ボールは使っても丸くならないし、雨でも飛ぶ。サッカーで使用されてから普及していった。

日本の大きな大会で初めてギルバート社製のボールが使われたのは87年の「雪の早明戦」。鈴木氏が当時の明大・北島監督に掛け合い、全国中継で披露された。

鈴木氏 白いボールだったため、予想外の大雪で不安だった。寒さで破裂したりしなくてよかった。

このボールは評価され、その後日本に広まっていった。W杯では第3回から使用。現在も手縫いで作られており、全く同じボールは1つもない。ルールやスタイルとともに変化してきたボールは、300年たった今も最高のプレーを生み出すために改良が続けられている。【松熊洋介】