ラグビー用具を紹介する連載の第5回は「ヘッドキャップ」。日本では高校生まで着用が義務付けられているが、その後は任意。耳や頭部を保護し、激しいプレーをするために欠かせないギアとなっている。

ヘッドキャップ(スズキスポーツ提供)
ヘッドキャップ(スズキスポーツ提供)

日本では大学生や社会人になれば、ヘッドキャップを着けなくてもいい。それでも着用するのはなぜか? 日本代表候補のプロップ山下裕史(32=神戸製鋼)はこう言う。

「大学1年の最初の練習で耳が切れた。ギョウザ耳になるのも嫌で、着け続けています。ラック、モールでも怖がらずに頭からいけるし、自分にとってはピッチで戦うためになくてはならないものです」

ヘッドキャップは耳の保護が目的だった。ヘッドキャップなしでタックルなどを繰り返していると、耳がこすれて血がたまる。処置を施さないとふくらんだまま固まってしまう。これがいわゆる「ギョウザ耳」だ。

現在は耳の保護だけではなく、頭部を守るものでもある。世界に比べ、もともと日本は芝より土のグラウンドが多く、後頭部を守る必要があった。ラグビーの進化とともに、90年代以降は激しいコンタクトプレーが増えた。当初は頭頂部が十字になる「十字型」が主だったが、カンタベリー社がヘルメット型を開発。後に世界で統一された。

89年、日本代表戦で十字型ヘッドキャップを着けプレーする林敏之(後方中央)
89年、日本代表戦で十字型ヘッドキャップを着けプレーする林敏之(後方中央)

日本代表に用具を提供しているカンタベリー社の鴛淵文哉氏は「衝撃を吸収して分散させるようにした。FWは着けている選手が多いですね」と指摘する。コンタクトプレーが多いFWは、より必要な用具でもある。山下が話しているように、頭部が保護されることで、思い切ってプレーできる利点もある。使う選手は3分の1前後。ヘッドキャップを必要とする選手は激しいプレーを信条とすることが多く、例えばフランカーが着用しているだけで、職人タックラーの雰囲気すら漂ってくる。

デメリットもある。サインは聞こえにくくなり、夏場は特に暑い。重さが気になる選手もいる。それゆえにメーカー側は、現在も軽量化や通気性などの研究を続けている。

ヘッドキャップを販売するスズキスポーツの代表取締役である鈴木次男氏は「邪魔だったり、格好を気にして着けなかったりする選手もいるが、脳振とうの危険がなくなったわけではない。身を守りたいと思う人も増えてきた」と話す。ただ、鴛淵氏も鈴木氏も「選手が一番プレーしやすい環境を作る」と声をそろえる。

タックルなどのコンタクトプレーは、ラグビーの大きな魅力の1つでもある。世界最高峰の戦いが見られる、今秋のワールドカップ日本大会。選手の激しいプレーは、ヘッドキャップにも支えられている。【松熊洋介】