ラグビージャーナリストの村上晃一氏(54)がワールドカップ(W杯)日本大会の主役候補を紹介するシリーズ第2回は、南アフリカが誇る“屈強男”フッカーのマルコム・マークス(25)です。

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18年9月、NZ戦で突進するマルコム・マークス(ロイター)
18年9月、NZ戦で突進するマルコム・マークス(ロイター)

アジアで初めて開催されるラグビーW杯日本大会の開幕が迫ってきた。試合が開催される12都市を軸に各地で告知イベントが行われている。筆者も大会の見どころについて話す機会が増えた。注目選手について問われることも多い。そんなとき必ず名前をあげるのが、マルコム・マークスだ。誰が見ても、そのすごさが分かりやすいからである。

マークスが日本のファンの前に初めて姿を見せたのは、16年2月27日のことだ。南半球最高峰のプロリーグ「スーパーラグビー」に日本からサンウルブズの参戦が決定し、待ちに待った開幕戦のことである。

秩父宮ラグビー場は約2万人の観衆で満員だった。サンウルブズは後半の半ばまで、13-19と6点差にくらいつき、勝利の可能性を感じさせていた。その夢を打ち砕いたのがマークスだった。

後半に交代選手として投入されると、25分、その突進がライオンズに流れを呼び込む。ピッチ中央付近でパスを受けると、3人のタックラーをはじき飛ばしながら突進し、サンウルブズを突き放すトライを演出したのだ。公式スタッツ(統計数値)によれば、わずかな出場時間ながら3回ボールを持って、計63メートル前進している。当時21歳、末恐ろしい選手が現れたものだと実感した。

マークスは94年、南アフリカ・ヨハネスブルクの北東にあるジャーミストンで生まれた。女手一つで育てられ、少年時代はサッカー、クリケット、水球などさまざまなスポーツをした。その中で彼にフィットしたのがラグビーだった。

性格は温厚で謙虚。おしゃべりなタイプではない。しかし、フィールドでは荒々しくプレーする。走力を生かし、高校までFW第3列のフランカーでプレーし、ユースレベルの南アフリカ代表に選出された。フッカーに転向し、16年、南アフリカ代表スプリングボクスに招集されると、目を見張る活躍を見せる。

身長189センチ、体重112キロ。筋肉のよろいをまとい、地面を力強く蹴って走ったかと思うと、器用なパスで味方を走らせる。最前列でスクラムをコントロールし、ラインアウトのスロワーを務め、モールの最後尾からトライを狙う。そして、太い腕で相手を倒してボールを奪う「ジャッカル」で、試合の流れを引き寄せる。味方にしてこれほど心強い選手はいない。

17年には、南アフリカの最優秀選手、最優秀若手選手、そして、南アフリカのスーパーラグビー最優秀選手の3冠に輝き、その名声は不動のものとなった。18年のスーパーラグビーではFW選手で最多の12トライをあげ、19年もその勢いはとどまるところを知らない。

ラグビーW杯の南アフリカ代表戦を見るときは、マークスの動きは必見だ。そして、対戦相手はマークスにいかに仕事をさせないかが勝利のカギとなる。