ラグビージャーナリストの村上晃一氏(54)がワールドカップ(W杯)日本大会の主役候補を紹介するシリーズ最終回は、イングランド代表の“熱血司令塔”オーウェン・ファレル(27)です。

2月、6カ国対抗のフランス戦で拍手するオーウェン・ファレル(ロイター)
2月、6カ国対抗のフランス戦で拍手するオーウェン・ファレル(ロイター)

W杯日本大会で、03年大会以来、2度目の優勝を狙うイングランド代表のキープレーヤーがファレルだ。彼がプレーするSO(10番)、インサイドCTB(12番)は、チームの戦術を握るポジションであり、正確なキック、パス、そして的確な状況判断が求められる。トップリーグの神戸製鋼を16シーズンぶりの優勝に導いたSOダン・カーターの冷静でクレバーなプレーぶりは記憶に新しいところだ。

しかし、ファレルは違う。熱すぎるほどに気持ちを前面に押し出してプレーするのだ。「刺客」と称されるほどに激しく肩をぶつけるタックルは、相手を吹っ飛ばし、小競り合いになることもしばしばだ。

昨年11月、日本代表は聖地トゥイッケナム競技場でイングランド代表と戦い、前半を15-10というリードで折り返す健闘を見せた。8万人のイングランドサポーターも沈黙する試合内容だったのだが、後半に登場して流れを変えたのがファレルだった。勢いのないチームに活を入れるように強烈なタックルを見舞うと、雄たけびを上げた。盛り上がる観客席。勢いづいたイングランドは後半だけで25点を挙げて逆転勝利。ファレルはキープレーヤーとしての存在感を示した。

ファレルは、イングランドで第2回W杯が開催された91年、北西イングランドのグレーター・マンチェスターで生まれた。この地域は、ラグビーリーグが盛んなところだ。ラグビーには、日本でポピュラーな「ラグビーユニオン」と、ユニオンから密集戦を排除した13人制の「ラグビーリーグ」という2つのコードがある。リーグは北部イングランドとオーストラリアで人気がある。

オーウェンの父アンディ・ファレル氏は、リーグとユニオンの両方でイングランド代表になった名選手で、現在は、アイルランド代表のディフェンスコーチを務める。オーウェンも、幼い頃は地元のリーグのクラブでプレーしたが、05年に父がロンドンのユニオンの強豪であるサラセンズと契約すると、家族で引っ越し、後にユニオンに転じることになった。

そして、オーウェンもサラセンズ入りし、08年、17歳でプロデビュー。その後も中心選手として活躍し、欧州のチャンピオンシップ、イングランドのプレミアシップなど数々の王者に輝く原動力になった。正確なプレースキックには定評があり、サラセンズでの得点は1500点を、イングランド代表では700点を超えている。おなじみのルーティンは、ボールが飛ぶ軌道を、首を横に振りながら数回見据えるものだ。イングランドが悲願の優勝を果たした時、その中心にはファレルがいるだろう。