いよいよワールドカップ(W杯)が迫ってくる。本連載では今日から5回「教えて、沢木さん!」をお届けする。読者からの質問、疑問に答えるのは、前サントリー監督の沢木敬介氏(44)。第1回は最も質問が多かった15年W杯のエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)とW杯日本大会に臨むジェイミー・ジョセフHCの違いについて。沢木さんに聞いて「ラグビー通」になろう。

エディー・ジョーンズHC(2018年11月17日撮影)
エディー・ジョーンズHC(2018年11月17日撮影)

大きく言うと、エディー(・ジョーンズ)ジャパンは相手によって戦術を使い分ける、ジェイミー(・ジョセフ)ジャパンは自分たちのスタイルを突きつける。キックの数とかラックの数とかのデータにも表れるけれど、戦い方という点で大きな違いはここにある。

エディーは戦術を2つ持っていた。ストラクチャー(セットプレーなど整備された状態)を基準にしたアタックと、アンストラクチャー(整備されていない状態)のアタック。2つを準備して相手によって使い分けてきた。どちらもポゼッション(ボール保持率)を重視。60%くらい、間違いなく50%以上はあった。

ジェイミー・ジョセフHC(2016年10月28日撮影)
ジェイミー・ジョセフHC(2016年10月28日撮影)

ジェイミーは、基本的にアンストラクチャーのアタック。ボール保持率が低くても勝てるチーム作りをしている。最近は選手たちとも話し合い、相手によって少しずつポゼッションを上げる戦い方もするが、基本的にはポゼッションを取らないラグビーになる。キックは本数だけでなく考え方から違う。エディーの時は早め早め。自分たちが攻めて、勢いがあるうちに蹴る。ジェイミーはアタックが不利な状況になった時にコンテスト(競り合いになる)キックを蹴る。ハイパントやグラバーなどのキックを多用する。

相手の背後を狙うキックの多用など、バック(裏の)スペースを突く意識はジェイミーの方がある。南アフリカが強かった時は、ポゼッションを取らないラグビーだった。どんどんエリアを取って、勝ってしまう。そうやって07年W杯で優勝した。ボールを持たずに勝つ。新しいラグビーのページができた。

4年前と比べて、選手も違う。個の力を持つ選手が圧倒的に増えた。姫野やファンデルバルトらFW3列に前に出られる選手がいるし、両CTBもキャリー(ボールを保持)で前進できる。突破力ある選手が増えたから、相手が前を警戒して後ろが空く。組織で勝つのがエディー、個でも戦えるのがジェイミー。確かにリスクはあるけれど、はまればすごいのが今のチームだ。

W杯ではキックは不可欠になるが、簡単にボールを失っていては勝てない。プレッシャーに負けて失うのではなく、意図的に失えるかどうか。ポゼッションとのバランスも大切。今は少しずつ良くなっている。日本が世界と戦う時、必ず必要になるのはクイックテンポ。どこの国も日本の速いテンポは嫌だし、止めづらい。ここは、共通している。エディーとジェイミーで戦い方は違っても、これがなければ勝てない。それは、絶対に4年前と変わっていないと思う。

 
 

※両HCの違いは、はっきりとデータにも表れている。ジョーンズHCが指揮した15年W杯の4試合とジョセフHCの18年全6試合の平均を比較したデータスタジアムによれば、顕著なのはキックの数。15年の1試合14・8本に対し、18年は2倍近い27・3本。モールやラックは15年が多い。

ラインブレークは18年は15年の倍。しかし、相手のラインブレークも18年が多い。コンテストキックなどで意図的に、整備されていないアンストラクチャーな状況を作るのがジョセフHCのラグビー。攻めても守ってもラインブレークの多い、オープンな試合展開となる。

エディー・ジャパンとジョセフ・ジャパンの比較
エディー・ジャパンとジョセフ・ジャパンの比較

◆沢木敬介(さわき・けいすけ)1975年(昭50)4月12日、秋田県男鹿市生まれ。秋田経法大付-日大を経て98年にサントリー入り。SO、CTBとして活躍した。06年からサントリーでコーチを務め、13年にU-20日本代表監督に就任。15年W杯ではコーチ。16年にサントリー監督に就任してトップリーグ連覇後、昨季限りで退任した。

沢木敬介氏(2017年8月7日撮影)
沢木敬介氏(2017年8月7日撮影)