野球やサッカーとは違って、ラグビーのヘッドコーチ(HC)は独特だ。ベンチに入らず、スタンド上段からインカムでチームを動かす。「教えて、沢木さん!」第2弾は「ヘッドコーチって、何をやっているんですか?」。サントリーで3季監督を務め、日本代表エディー・ジョーンズHCの参謀役も務めた沢木敬介氏が教えます。

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仕事のほとんどは試合前に終わり。実際に試合中できることは10%ぐらいで、90%は終わっていないと。試合中はスタンドからチームを観察する。良いところや悪いところを見て、どう改善すべきか考える。戦術的なこともある。それらを整理して、選手に伝える。

直接指示できないので、インカムを使う。情報の流れ方は、チームによって違う。ただ、トップチームのほとんどはHCがコーチ陣らから情報を集め、それを試合中ピッチに入ることができるウオーターボーイ(補水係)やドクターを通して選手に伝えている。

エディーHCは、ワールドカップ(W杯)でウオーターボーイを務めた僕に選手への指示を伝えてきた。ただ、プレーが止まった時にしかピッチには入れないので、そういう場合はプレー中でもピッチに入れるドクターを介して伝えていた。

とはいえ、ラグビーは最終的にキャプテンが判断するスポーツ。僕は、キャプテンにはカリスマ性が必要だと思っている。周りを引きつけ、良いパフォーマンスをし、タフな選択ができること。絶対大事なのは、監督とリーダーが同じ方向を見ていること。常にコミュニケーションをとってリーダーを育てるのは、すごく大事な仕事になる。

僕は、リーダーに任せるタイプ。ただ、それは人による。練習前に話し、終わっても話したい人もいる。僕はミーティングを終えて練習になったら、ピッチで考えろと。だからこそ、リーダー陣とは同じ考えでないといけない。練習の反省点は(CTB)ギタウとか(SH)流が言ってくれていた。エディーHCの時はリーチの役目だった。

15年W杯で南アフリカに勝った時、エディーはPGを指示した。しかし、結果的には(トライを狙った)リーチの判断で勝った。リーチがキャプテンとして育ったからこそ、あの判断ができた。そのリーチを育てたのは、エディーなんだ。

メンバー15人を決めるのも、大切な仕事。1番は、よいパフォーマンスができる選手(笑い)。コンディションもそうだし、経験もそう。この相手に対してどうかとか、ビッグマッチの経験も考える。大きな試合になればなるほど、経験値が必要。だから、W杯はキャップ数が大事になる。

キャップ総数が多いというのは、経験のある選手がたくさんいて、チームとしての経験値も高いということ。ノープレッシャーの親善試合とは違って、W杯のような大会ではチームの経験値は不可欠。もちろん、全体の底上げという意味では多くの選手を起用するのもいいが、4年間かけてチームをインターナショナルレベルに育てることも代表HCにとって忘れてはならない大切な仕事だ。