トップリーグ(TL)で指揮を執る海外出身の名将が独自の目線で日本代表、ワールドカップ(W杯)について語るシリーズ第2回は、トヨタ自動車のジェイク・ホワイト監督(55)です。07年大会で南アフリカを優勝に導いた知将は、選手の起用法、対戦相手との探り合いが勝利の鍵になると説きました。

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ホワイト氏はW杯を語る前に、日本の成長の陰に、大学ラグビーのレベル向上があると指摘した。大学がTLを押し上げ、TLで選手が育つ流れが代表強化につながっていると話す。

ホワイト氏 まず言いたいのは、3年前の来日時と比べると、大学のレベルが上がっているということだ。TLに入ってすぐに活躍している選手が多くのチームにいることがそれを証明している。トヨタでも、木津がすぐに日本代表候補になり、姫野も即戦力として代表でプレーしている。サントリーの梶村、堀越、パナソニックの山沢らも才能豊かな選手だ。そういった良いシステムが、日本ラグビーの飛躍的な進化を支えていると言える。

TLで2シーズン戦った経験を踏まえ、日本代表で特に印象深い選手としてプロップ具の名前を挙げた。

ホワイト氏 具のスクラムの安定感は素晴らしい。日本はスクラムが弱いイメージが世界にあったが、近年それが変わってきた。昔はティア1(世界最上位グループの強豪)を相手には、すぐにボールを出さないと通用しなかったが、今はしっかり組んで勝負し、そこからボールを出せるようになった。そうなると姫野、リーチなどのバックローの選手がボールを持ってプレーする余裕がうまれ、相手はディフェンスが読みづらくなる。そういう意味でも、具の存在は大きい。

07年、W杯フランス大会を制しトロフィーを手にする南アフリカのホワイト監督。左は大会トライ王のハバナ(ロイター)
07年、W杯フランス大会を制しトロフィーを手にする南アフリカのホワイト監督。左は大会トライ王のハバナ(ロイター)

強豪アイルランド、スコットランドと同組の日本。W杯制覇の味を知る知将は、目標の8強に向けた戦いをどう見ているのか。

ホワイト氏 日本の人たちは、1次リーグ最終戦のスコットランド戦に勝たないと決勝トーナメントに進めないように思っているが、スコットランドがアイルランドに勝つことも考えられる。そうなれば、スコットランドに勝ってもボーナスポイント(BP)の影響で上に進めないこともある。つまり、ロシア、サモア戦のBPが必須になるということだ。私がスコットランドのコーチなら、最終戦が日本というのはいやだし、日本のサポーターの前で決勝トーナメントをかけた試合はしたくない。各チームのコーチは、誰をどの試合で使い、いつ休ませるのかを、今考えている。つまり、相手コーチの頭の中も探りつつ、準備をしないといけないということだ。

日本代表がW杯で成功を収めるためのポイントを聞くと、経験豊富な選手の使い方を挙げた。

ホワイト氏 ビッグゲームなら、誰もが堀江、リーチ、田中の3人で試合をフィニッシュさせたいと思うだろう。プレッシャーがかかる残り20分の場面では、その3人をグラウンドに置きたいと考えるはずだ。彼らをベンチからスタートさせ、展開を見ながら投入することも考えられるが、先発の場合は控え選手が鍵になる。残り10分で出場する若手が、とてつもなく大きな重圧を受ける展開になるかもしれない。試合の流れを変えるインパクトプレーヤーも大事だが、W杯ではボールを持って簡単にトライなどできない。その3人の使い方は、日本代表にとって重要なポイントになるかもしれない。

◆ジェイク・ホワイト 1963年12月13日、南アフリカ・ヨハネスブルク生まれ。教師や若年層の南ア代表の指導者を経て04年に南ア代表監督に就任し、07年W杯で優勝。13年にはブランビーズを率いスーパーラグビー準優勝。モンペリエ(フランス)などの指揮を経て17年からトヨタ自動車監督。04、07年にIRB(現ワールドラグビー)の年間最優秀コーチ賞受賞。