1次リーグで日本と対戦するアイルランドは出場20チーム中唯一、アイルランドと北アイルランドの2つの国が連合で出場している。1920年代に英国からアイルランドが独立し、サッカーなど他の競技はそれぞれの国で出場しているが、ラグビーだけは今でも一緒のチーム。紛争が続いた両国の歴史の中でもラグビーの絆だけは今でも強く結ばれている。

17年6月、日本とのテストマッチを前に肩を組んで歌うアイルランドの選手たち
17年6月、日本とのテストマッチを前に肩を組んで歌うアイルランドの選手たち

「ラグビーに国境はない」。アイルランドと北アイルランドは長い間紛争が続いたが、ラグビーファンの心は1つだった。都内でアイルランド料理店を経営しているある店主は「分裂」したサッカーとの違いを「昔はラグビーを知っている人が少なく、強いチームを作るためには協力することが必要だったのです」と語る。98年にベルファスト条約が結ばれた後は暴動がなくなり、互いを自由に行き来することができ、ファンも増えていった。母国のプライドを持ちながらも、ラグビーでは1つになり、現在では世界ランキング3位の強豪となった。

日本を含め、各国のラグビーの代表選手になるには、出生地や国籍は関係なく、3年以上その国に在住など、ある一定の条件を満たせば可能だ。どの国の代表にも国籍の異なる選手が所属している。そんな中、2つの国の選手が出場しているのはアイルランド代表だけだ。

両国の確執は12世紀ごろにまでさかのぼる。カトリックが多かったアイルランド島にプロテスタント系の英国民が侵略して長きにわたり支配。1919年に独立を宣言すると紛争が勃発。22年にアイルランド自由国が誕生したが、内戦はおさまらなかった。サッカー界はそれぞれの国で協会ができ、代表は別々に。1879年に設立されたアイルランドのラグビー協会は、独立後も代表を統括したため、分裂しなかった。

アイルランド代表のエンブレムは国花のシャムロック。ラグビー協会の旗はシャムロックの周りに4地域の紋章が描かれている。あくまで両国の代表であり国旗は使用していない。95年大会では試合前の国歌斉唱が始まったが、そこでも1つの「チーム」という精神を貫いた。アイルランドの国歌は「兵士の歌」。英国と独立をかけて戦った兵士の思いがつづられた歌を両国が歌うわけにはいかず、アイルランド協会は選手もファンも1つになろうと「Ireland’s Call」というラグビーの歌を作った。「ともに立ち上がり、アイルランドのために肩を組もう」という両国共通の思いのこもった歌が、現在でも国歌斉唱時に披露されている。

紛争が起こっても、宗教が違っても、ラグビーのようにスポーツだけは今も昔も平和だ。そんな両国の人たちの思いを背負いながら、アイルランド代表は戦っている。【松熊洋介】