アジア初開催の19年ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会開幕まで、今日20日で1年となった。歴史的3勝を挙げた15年イングランド大会から3年。日本代表はジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(48=ニュージーランド)のもと、史上初の8強入りを目標に、強化を続けてきた。日刊スポーツでは、開幕1年前に合わせ、W杯に向けた情報を3回連載でお届けする。初回は日本代表の「兄貴」こと、フッカー堀江翔太(32=パナソニック)に、代表の現在と未来、「最後」と語る自身3度目のW杯への思いを聞いた。【取材・構成=奥山将志】

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180センチ、104キロ。持ち場の肉弾戦で強さを見せれば、BKのようなしなやかなパス、キックで会場を沸かす。ピッチ上で何役もこなす32歳は、「フットボーラー」と尊敬のまなざしを浴び、日本ラグビー界を先頭で引っ張ってきた。3度目のW杯開幕まで1年。ドレッドヘアで豪快に話す姿に、迷いは一切ない。

堀江 1年と聞けばもう少しみたいだが、まだ1年もある。頭の中には「代表が絶対」というのが常にあるし、まだまだ成長できる。代表でやるのはW杯が最後のつもり。今を大事にして、1年後にどんぴしゃでピークを合わせたい。

日本は昨秋に強豪フランスと引き分け、6月にはイタリアを撃破。15年大会後からのジョセフ体制で、着実に成長を続けてきた。

堀江 代表の誇り、プライドは15年のチームを引き継いでいる。若い選手がその良い空気にさらされて、さらに良い選手が出てくる。合宿でも休憩中に対戦相手の分析をしたり、自分たちの練習映像を見たり、練習漬けだった15年と比べると自主性が強くなった分、対応力は確実に増した。

16年は世界最高峰リーグ、スーパーラグビー(SR)の日本チーム、サンウルブズの初代主将、代表でも主将を務め、19年W杯に向けた日本代表の土台を作った。だが、その献身的な活躍の裏で、体はボロボロ、気持ちも切れかけていた。

堀江 16年は(15年2月に手術した)首の状態も悪く、精神的にも肉体的にも限界を超えていた。W杯からリセットする時間がない中で、19年W杯に向けてサンウルブズが始まった。誰かが主将をやらないといけない中で、ああ、俺かって。自分の練習もできず、チームのことを考えて、いらいらすることも多かった。15年の状態を100とすると、60ぐらいまで落ちた。

首脳陣の配慮もあり、昨秋からは主将の肩書が外れ、自身のプレーに専念。「40歳まで現役」を目標に掲げ、元日本代表トレーナー佐藤義人氏のもとで、一から体を作り直した。今春の代表戦では、堀江らしい自由自在なプレーを披露し、健在ぶりを見せつけた。

首の手術をして、左手の握力は一時9キロまで落ちた。好きだったギターも、薬指と小指の力が入らずに下がっていくから弾けなくなって、嫌でやめた。佐藤氏とは、まずは元に戻すところから始めて、それがこの春につながった。最近は指の調子も良くて、3本で弾けるウクレレも始めた。フィジカルは15年と比べても今の方が断然良い。

09年に初キャップを獲得し、代表でのプレーは来年で節目の10年を迎える。13年にはSRに日本人FWとして初めて挑戦し、現在も海外チームからオファーを受ける。成長を支えるのは、変化を恐れない姿勢だ。

堀江 大切にしているのはニュートラルであること。1人で海外に出た時に、自分の理想と世界の主流のラグビーのギャップに苦しんだ。頭を0にしないと新しいものは吸収できない。ラグビーはルールも流行もどんどん変わるし、考え方をアップグレードしていかないと取り残される。たとえオールブラックスの偉いコーチに言われても、自分に合わないものは合わない。要は見極める力。若いやつとの何げない会話にもヒントは転がっている。

現在の代表メンバーで、11年W杯を経験したのは、リーチ、田中、堀江の3人のみ。11年は1勝もできず、15年は歴史を塗り替えた。勝ち、負けの両方を知るからこそ、W杯の特別さを痛感している。

堀江 11年の時は代表に対する特別な感情も今のようにはなかったし、1つの遠征が終わったような感覚で帰国した。それが、15年にエディーさんのもとで日本ラグビーのプライドを取り戻そうって、あれだけきついことをやって、変わった。結果を残して日本に帰ってきたら、周りの反応も全然違う。ラグビー界を盛り上げるためには、W杯の結果だと身をもって感じた。

「1歩引いた立場」と自身の立ち位置を語るが、経験も含め、その存在感は日本代表の中でも特別だ。史上初の8強へ、「兄貴」は力強く締めくくった。

堀江 出し惜しみだけはしたくないし、とにかく、4年間自分たちがやってきたことをすべて出したい。ジェイミーが今やっていることを信じてやれば、ベスト8は絶対についてくる。

◆このほど行われたイベントで、堀江が派手な髪形の理由を明かした。15年W杯時は爽やかなさらさらヘアだったが、同じFW第1列の畠山、木津と勘違いするファンが続発。「これはあかん」とイメチェンを決めた。16年末からパーマを当て始め、ボクシングのプロモーター、ドン・キング氏風→ドレッド&サイドを刈り上げた現在の形に行き着いた。「安室奈美恵を意識している」と満足顔だったが、8月、ファンから「畠山選手ですよね」-。さらなる進化も近そうだ。

◆堀江翔太(ほりえ・しょうた)1986年(昭61)1月21日、大阪府吹田市生まれ。島本高、帝京大時はNO8、フランカー。卒業後のニュージーランド留学でフッカーにポジションを変更。現在はパナソニック所属。13、14年シーズンはスーパーラグビーのレベルズ(オーストラリア)でプレー。日本代表キャップは58。家族は妻と2女。