11月下旬。19年連続29回目の花園出場を決めている東福岡ラグビー部が自校で練習試合を行った。そして、その様子を熱い視線で見つめる少年たちの姿があった。県内のラグビースクールに通う、中学生の選手たちだ。

「この子たちは地元に『いいお手本』があって幸せですよね。ヒガシ(東福岡)の選手たちから練習に向かう姿勢や、目標達成までの努力の重ね方を教えてもらい、憧れが増しているようです」。

中学3年生のある保護者がそう言ってわが子に目をやった。先輩たちが東福岡に進学しているため、こうして練習を見学したり、話をしたりして生の声を聞く機会が多いと言う。130人近い部員がいる強豪校だが、ライバルの多い環境で自分を高めたいと息子は話しているそうだ。

「『ヒガシに入って、花園出場。指定校推薦でラグビーの名門大学に入って、日本代表として活躍する』。中学に入った時から、そういう目標を描いていました。いわゆる『自分年表』を持っているんですよね。家庭では『ヒガシに入るためには勉強もがんばらないといけないよ』と話しているので、ラグビーと勉強の両立が自分の意志でできるようにもなりました」。

「自分年表を持つ」。

東福岡ラグビー部の選手たちはレギュラー、控え関係なく、このマインドを持っている選手が多い。現在40人以上の卒業生が国内最高峰のトップリーグに所属しているが、ラグビーを自分の人生にどう関わりづけていくか。そこをしっかりイメージして日々の練習に取り組んでいるのだ。幼少期から多くのスポーツを経験してラグビーを選択した者が多い。

■「花園」のあとも燃え尽きない選手たちのマインド

強いタックルが持ち味のHO福井翔主将(3年)はアメフットからの転向組だ。京都出身だが、短時間集中型の東福岡の練習にひかれて入学した。大学でもラグビーを続け、30歳くらいで日本代表に入りたいとの夢を持つ。

キッカーとして高いゲームメーキングを持つSO吉村紘選手(3年)は、幼少期に水泳、小2までバレー、小4までバスケット、中学では陸上部に所属していた。ラグビーと併用で多くの競技を経験し、高校進学は公立進学校も考えていたと言う。東福岡の練習を見学したとき「グラウンド内の緊張感がすごい。ここまで危機感を持ってやっているチームは他にない」と感じ、強豪校の門をたたいた。これからの目標を聞くと「日本代表入り、プロ選手の夢はもちろんありますが、最終的にはプロチームのコーチになりたいと思っています。35歳まで現役でやりたい。セカンドキャリアを広げるために東京の大学に行って視野を広げたい」。夢が続くから、燃え尽きない。卒業後は早稲田大学への進学を予定している。

広いキャンバスに絵を描くように彩られる、それぞれの自分年表。選手たちがこういった考えを持てるのは、「強制しない」、「命令しない」という東福岡特有の練習環境にある。就任7年目で2014、2016年に史上初の高校3冠を達成した藤田雄一郎監督(46)は「命令で説得することはできても、それはコーチングではない。選手に動機づけをし、試合に向けて自分たちで修正させ、決断力と行動力をつけるのがコーチの役目」と言い切る。そして選手の進路についても、その選手が描く未来を尊重し、決めつけはしない。ハイレベルな環境でスキルアップしながら、自分の選択で道を選んでいく選手ほど、上のステージで活躍できるからだ。

昨年の主将でU18日本代表の福井翔大選手(19=パナソニックワイルドナイツ)の時もそうだった。「彼が在学中、複数の大学から声をかけていただきましたが『高いレベルでチャレンジしたい』、『15年先を考えるよりも、ラグビーをできる15年間を考えたい』というのが彼の本心でした。ラグビーでは大学進学がスタンダードであり、高卒プロというのは前例がほとんどない異例ではありましたが、彼の覚悟を理解し、背中を押しました」とふり返る。

1日、第98回全国高校ラグビーフットボール大会(27日開幕、大阪・花園ラグビー場など)の組み合わせが決まった。Aシードとして2回戦から登場する東福岡は、昨年より1人多い11人の高校日本代表候補を擁しながらも、選抜は準々決勝で桐蔭学園に34-40で敗れ、苦い経験を味わった。今回Aシードという期待を受け、福井主将は「福岡予選では失点もあり、昨年のように圧倒的に勝ち上がってきたとは言えませんが、今年はスピードとチームワークに自信があります」と前向きに話す。「目標はもちろん優勝です」。挑戦者として原点に立ち返った「無冠のヒガシ」がどんな戦いを見せるか。2年ぶりの花園優勝、そしてその先も続く夢への加速が始まった。【樫本ゆき】