日本代表ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC、49)が修正力を喜んだ。キックオフの処理でもたつき、前半4分に先制トライを献上。だが、計4トライでボーナスポイントをつかみ、ニュージーランド出身の指揮官は「4年間、開幕戦に向けて準備してきた。重圧に対してうまく戦い30点を取れた」と笑った。

格下相手に後手に回り、ため息に包まれたスタジアム。選手は円陣を組み、7分後の反撃トライで立て直した。指揮官は後半早々、交代選手を送り込み「ミスで重圧がさらに強くなった。W杯で起きること。それを調整しないといけないが、それができた」。エディー・ジョーンズ前HCは禁止していた、タックルされながらのパスも得点機会で機能。厳しい局面で足並みをそろえる蓄積があった。

順風満帆ではなかった。16年9月に就任直後、前年W杯の南アフリカ戦勝利などを引きずる空気が不快だった。「偉業を達成した後で、ハングリー精神がない」。フッカー堀江、CTB立川ら中心選手に強く当たり、選手から高圧的な姿勢に対して反発を食らった。

わだかまりが解けたのは昨年4月。都内に日本人選手だけが集い、現日本代表強化委員長の藤井雄一郎氏、長谷川慎スクラムコーチが食事の場で聞き役になった。選手たちは本音で現状を吐露。9月の日本代表候補合宿(和歌山)に参加したリーチは「明らかに日本人の良いところ、悪いところを勉強してきた」と指揮官の変化を感じ取った。チームディナーでは共に鍋をつつき、直接の会話機会が少なかった堀江も「お互い勘違いをしていた。話せば分かった」と心を開いた。

今年7月の宮崎合宿ではリーチ主将らの発案で、君が代の歌詞にある「さざれ石」を見学。空き時間は出身国、ポジション問わずで食事し、互いの考えを尊重する空気が育まれた。夏のパシフィック・ネーションズ杯は5年ぶり優勝。CTB中村は「信頼関係がお互いにできた」と指揮官を見つめ、合言葉通り「ONE TEAM」が生まれた。

開幕戦前夜、ジョセフHCは登録31人の名前が刻まれた代表ジャージーと、母国のマオリが戦いで用いる「グリーンストーン」を選手1人1人に手渡した。そこに、かつて頭を悩ませた溝はない。アイルランド戦は「難しいテストマッチになる」と覚悟する。番狂わせへ、パワーは結束力と自主性が生む。しっかりと肩を組み、次はさらに大きく跳び上がる。【松本航】