世界ランキング9位の日本代表が大金星を挙げた。過去の対戦が9戦全敗だった同2位アイルランドを19-12で破った。

SO田村優(30=キヤノン)のPGで食い下がり、後半18分にWTB福岡堅樹(27=パナソニック)が逆転トライ。伝統ある欧州6カ国対抗のチームにW杯で初めて勝ち、勝ち点9で1次リーグA組首位に浮上した。日本は10月5日にサモア(16位)、13日にスコットランド(8位)と対戦する。優勝候補を破り、初の決勝トーナメント進出がはっきり見えてきた。

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これが日本だ。これが日本のラグビーだ。秋の夜空に桜が咲いた。相手ボールに絡みつき反則を奪った姫野が、顔を紅潮させて雄たけびを上げた。38歳トンプソンが懸命なサポートで勇気を与えた。先発を外れたリーチがこれでもかと密集に突っ込んだ。万歳三唱が自然発生した満員のスタジアム。体を張り続けた稲垣が泣いた。勇敢な桜の戦士が、世界の高い壁を真っ向勝負でぶち破った。

偉業を成し遂げた屈強な男たちの歓喜の輪。ジョセフ・ヘッドコーチは「何と言っていいかわからない。信念を貫いたことが勝因だ。選手を誇りに思う」と力を込めた。再び世界を驚かせる、歴史的勝利。ベテラン田中は「(15年の)南ア戦1回だけじゃないと世界に伝えられた。油断がないアイルランドに勝った。日本の成長を示せた」。166センチの体が大きく見えた。

信じる道を突き進んだ。前半から愚直に戦った。自陣に攻め込まれれば、強烈なタックルで襲いかかった。1人がだめなら、もう1人。力勝負でも負けはしない。敵陣に入れば、徹底してボールをキープし、反則をせずにパスをつなぐ。そのぶれない姿勢が、アイルランドの体力を少しずつ削り取った。戦前の狙い通りの「後半勝負」。リーチが「世界一」と誇るフィットネスが、大一番で勝利を引き寄せた。

3本のPGで、9-12と3点を追う後半18分。敵陣に攻め込むとSH田中が表情を引き締めた。ここだ。全員がその思いを共有した。左への展開。中村、ラファエレとつなぎ左タッチ際が空いた。福岡。誰よりも速い男がそこにいた。トライ。逆転。日本の勢いが相手をのみ込んだ。残り4分。7点リード。自陣で相手の猛攻を耐えると、一瞬の隙をつき、再び福岡が抜け出した。トライこそならなかったが、敵陣で残り時間が減っていく。ベンチ前では選手、スタッフが肩を組み勝利を願う。ホーンが鳴った。7点差以内の負けのボーナス点「1」を取るために、優勝候補が勝利を諦め、タッチに蹴り出した。

試合前夜。ミーティングで1つの話が共有された。世界最高峰のエベレストで遭難した人が、1枚の地図を見つけ、どうにか下山に成功した。だが、下山後、その地図は別の山のものだったことが判明した-。「不可能に見えても、信じて戦えば道は開ける」。日本代表にとって、それは仲間を信じること、そして、自分たちがやってきたことを信じることだった。チームスローガンは「ONE TEAM」。これが日本のラグビーだ。【奥山将志】

◆W杯1次リーグ順位決定方法 各組上位2チームが決勝トーナメントに進出する。勝ち=4点、引き分け=2点、負け=0点の勝ち点制で争う。4トライ以上、7点差以内の敗戦には、それぞれボーナスポイント1点が加算される。勝ち点が並んだ場合は(1)直接対決(2)得失点差(3)トライ数差(4)得点数(5)トライ数で決着。ここまで並んだ場合、前回は世界ランキング上位チームが上位だったが、今回は抽選となる。