ラグビー日本代表WTB福岡堅樹(27=パナソニック)は、15人制最後のW杯を戦っている。開幕直前に右ふくらはぎを肉離れ。影響が懸念されたが、W杯2戦目のアイルランド戦から途中出場で2戦連続トライを記録した。

初の8強が懸かる運命のスコットランド戦(13日、横浜・日産スタジアム)を前に、福岡・古賀市で福岡歯科医院を開く父綱二郎さん(61)が快足エースの素顔を明かした。

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都内で調整する福岡の表情は柔らかく、落ち着いていた。20年東京オリンピック(五輪)の7人制を最後に、医学の道へ転身。15人制の集大成となるのが今大会だ。歴史的勝利を挙げたアイルランド戦は後半9分、前戦サモア戦は同16分からの出場でトライ。短い時間での決定的な仕事が光る息子を、故郷福岡では父綱二郎さんが「少しでもチームに貢献し、満足できる結果でやりきってほしい」と見守っている。

「堅樹」の名は仏典にある「好堅樹・高堅樹」が由来だった。「何百年も地中で成長して、いったん地上に出ると、1日に何百メートルも伸びる樹木があるというところからいただきました」。息子の座右の銘はアップル創業者、故スティーブ・ジョブズ氏の名言「貪欲であれ、愚か者であれ」。常に向上心を持ち、チャレンジャー精神を忘れない。父は「小さい頃からじっとしていることが嫌いで、好奇心旺盛でした」と思い返した。

進学校の大阪・天王寺高でWTBとしてプレーした綱二郎さんの影響で、福岡も5歳でラグビーを始めた。ピアノ、習字、スイミングも習っていたが、小5で学習塾に通い始めたため、小学校高学年からはピアノとラグビーに絞った。

綱二郎さん 勉強は学校で済ませていたようです。家でしているのを、あまり見たことがなかった。ただ、ひとつの才能というか、何かをやるときはものすごく集中していた。

中学時代の学年成績は常に3番以内。通っていた塾の講師から、毎年東大に多数の合格者を出す福岡県屈指の進学校、久留米大付高受験を勧められたほどだった。だが、ラグビー部がなく、地元の進学校である福岡高に進んだ。大阪大歯学部卒の綱二郎さんの兄は内科医、母のぶさん(55)の父も内科医。父母方共に医者が多い家系で、とにかく頭が良かった。

ピアノは小4の時、九州・山口のコンクールで最優秀賞に輝いた経験を持つ。今でも福岡は自宅に戻ると、電子ピアノを弾いてリフレッシュする。父は「指を開いてピアノを弾くことで、ラグビーのハンドリングや、パスの正確性、リズミカルなステップにつながっているみたい」と笑った。

姉唯子さん(31)が元劇団四季団員で、福岡も「レ・ミゼラブル」など大のミュージカル好きだ。高校時代は5人組バンドでドラムとキーボードピアノを担当。音楽もこよなく愛す50メートル5秒8の“天才快足ラガーマン”が、日本の快進撃を支えている。【菊川光一】