ホームの重圧と闘った31人の魂は、人々の心をこれでもかと揺さぶった。1次リーグ突破を決めたスコットランド戦の瞬間最高視聴率は53・7%を記録。「盛り上がるのか」という大会自体への不安を、日本の活躍が消し去った。命をかけた肉弾戦。全試合で、混じり気のない勇気、桜のジャージーを背負う覚悟をみた。初の8強進出。歴史の扉をこじ開けた姿に、多くの人が感動し、自らの人生や生活を重ね合わせた。

強い組織とは何なのか-。15年W杯、前任のジョーンズHCが猛練習と管理型の指導で世界の扉を開いたとすれば、ジョセフHCは、それぞれの選手が、自ら判断できる「個」を育てることでチーム力を引き上げた。肉体、持久力を徹底的に鍛え、リーチを中心に自分たちで考え、世界を驚かすチームを作りあげた。決勝トーナメント進出を決めると、福岡、稲垣が口をそろえた。「4年間、いろいろなものを犠牲にしてきた」。全員が共有した強固な意志のもと、ともに過ごした日々が、大舞台でもぶれない集団を作りあげた。

リーダーとは何なのか-。けがの影響で開幕から調子が上がらずに苦しんだリーチ。アイルランド戦では3大会目のW杯で初の先発落ちも味わった。それでも、現状を受け止め、足もとを見つめ続けた。台風の被害が出る中で行われたスコットランド戦。「鬼になる」と魂のタックルで決勝トーナメント進出を決め、重責を果たした。それでも試合後のインタビューでは、運営に携わった人への感謝、被災者への思いを語る姿があった。「キャプテンが最強でないと勝てない」-。自ら繰り返してきた言葉通り、主将として背中でチームに安心を与え続けた。

仲間、絆とは何なのか-。試合に出場できずに大会を終えた5選手の献身がチームを支えた。給水役を務めた徳永らが相手の動きを分析し、スクラムでは木津が対戦チームに似たやり方で先発組と対峙(たいじ)。悔しさを押し殺し、持ち場に徹した思いは、主力選手に伝わった。直前にメンバー落ちした山本がSNS上でチームソングを会場全体で歌うようファンに呼びかけ、テレビ解説を務めたスーツ姿の布巻がピッチでうれし涙を流した。合言葉は「ONE TEAM」。強い結束が、記憶に残る4つの勝利につながった。

3年かけて細部まで徹底的に追求したスクラムには日本の技術が詰まっていた。死闘となったスコットランド戦。「我慢しろ」と互いに声をかけ続けた15人の姿には、ルールを守る意味、忍耐があった。試合中に小競り合いになった田村は、SNS上で相手選手と“和解”。2人のやりとりには、ノーサイド、相手へのリスペクトがあった。スコットランド戦2日前の非公開練習。会場の外で声をからすファンに気付いたラブスカフニは、自ら歩み寄り、1人1人に丁寧に感謝を伝えた。「日本代表は外国人ばかり」。7カ国にルーツを持つチームの多様性は、そんな声をかき消した。

ラグビーは面白い。スポーツは面白い。19年秋。日本代表の熱が、日本中を豊かにした。【奥山将志】