<大相撲夏場所>◇4日目◇13日◇東京・両国国技館

 横綱朝青龍(28=高砂)が、師匠高砂親方(元大関朝潮)の目の前で供養の白星を飾った。東前頭2枚目豪風(29)を痛めている左ひじでかち上げ、一気に押し出した。3日目の黒星を引きずらず、1敗をキープ。前日12日に母季喜(すえき)さん(享年78)を亡くしながら、通夜も出ずに高知から帰京して、幕内後半戦の審判長を務めた土俵下の師匠に、勝利をささげた。

 朝青龍はいつも以上に厳しく攻めた。右手をつき、左手をかすかにつけて勢いよく立った。右で豪風のほおを張り、痛めている左ひじを思い切りかち上げた。相手の上体を起こし、右を差して前へ。土俵際で引かれ、体を預けての押し出し。闘志は勝負後も収まらず、鼻血を出し、まぶたを切った豪風をにらみ続けた。

 朝青龍

 引っ張り込まれて土俵の下で手をついた時、左ひじに(電気が)走ったんだ。お互い熱くなっているからね。でも、気にしない。礼をすれば終わったことだから。

 勝負後に相手をにらみつける行為は認められない。だが朝青龍はそれだけこの一番にかけていた。「連敗は許されない」という綱のプライド。そして母を亡くした師匠を元気づけるためだった。前日、安美錦に敗れた後、師匠の母の悲報を知った。直後は言葉を失ったが、この日は「去年の3月、大阪でお会いして『頑張りや』と声をかけてもらいました。優しい方でした」と思い出を語った。

 高砂親方は弟子に何も告げず、12日の十両審判長を務めた後に高知に向かい、季喜(すえき)さんの亡きがらと対面した。「線香をあげてきた。知り合いに化粧をしてもらって眠っているようだった」。この日は通夜が、14日には告別式が予定されていたが、同親方は「仕事があるから」と一夜明けて帰京。審判部に入った。

 つらい気持ちを胸にとどめて自分の仕事を果たす師匠に、朝青龍が弟子としてできることは、土俵で結果を残すことしかない。「おやじの笑顔は、お母さんのそのまま。おやじのためにいい相撲を取りたかったんだ」と振り返った。

 場所前の「ゴルフ騒動」を含めて迷惑をかけ通しだが、その分だけ師匠への思いは強い。師匠も「動きはまあまあ。昨日の負けは引きずっていないようだ。それが大事だ」と弟子の奮闘を受け止めた。あとは逆転Vで、親方の笑顔を取り戻させる。【柳田通斉】