<大相撲秋場所>◇9日目◇21日◇東京・両国国技館

 高見盛は「落ち武者」のようになっていた。3日連続の満員御礼。人気者は大歓声を浴びながら、息を切らして勝ち名乗りを受けた。土俵際でのはたき込みに倒れた…かに見えた一番。「頭、引っ張られた感触があった」と、阿覧の右手は決して多くはない髪をつかんでいた。物言いの末に人生初の反則勝ち。「勝ちは勝ちだ」と興奮した。

 戦いぶりは「落ち武者」ではなかった。立ち合いから、阿覧の突きや張り手を顔面に受けまくる。拳ではない。だが、突きというよりもボクシングの「ジャブ」のような鋭さだった。回転よくヒットした「ジャブ」は計24発。高見盛の顔は大きくゆがんだ。

 高見盛

 オレはサンドバッグでも、機械でもない。腹立つけど、勝負は勝負ですから。こっちも必死だった。気入れて、前に出ていくしかない。

 打たれても打たれても、前に出た。まわしをつかもうと必死な姿に館内は悲鳴、支度部屋はなぜか笑いに包まれた。「打撃とか苦手だ」というのに、阿覧を根負けさせ追い詰めた。土俵下では鼻をふき、血が出てないかを確認。出てない鼻血を気にして、花道ではあまり上を向かなかった。

 ダメージはあとからきた。「土俵じゃ気、入っているからいいけど、あとでクラクラしちゃった。安静にするしかないな」。幸い、口の中を「軽く切ったくらい」で安心。風呂から上がり、乱れた髪を直す間は、大きなゲップを一発吐き出した。「血は緑色?」との問いに「オレはゾンビか!」と切り替えしたロボコップ。不死身の肉体で、再び白星を先行させた。【近間康隆】