横綱朝青龍(29=高砂)が、初場所中に泥酔し知人男性に暴行したとされる問題で、警視庁麻布署は30日、事実関係を確認するため朝青龍から事情聴取する方向で検討を始めた。日本相撲協会の武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)は同日、師匠の高砂親方(元大関朝潮)から、男性と朝青龍との示談が成立をしたとの報告を受けたと明かしたが、一転して刑事事件へと発展する可能性も出てきた。渦中の朝青龍は、東京・両国国技館で行われた元幕内皇司の若藤親方の引退相撲に参加。5日ぶりに公の場に出たが、暴行問題については終始無言だった。

 知人男性を暴行したとされる朝青龍に対し、警視庁が動きだした。麻布署は当初、男性から傷害容疑などで被害届が提出された場合には朝青龍から事情を聴く方針だった。だが、社会的な影響を考慮して、示談が成立したかどうかや、男性が被害届を提出するかどうかに関係なく、男性や現場にいた関係者から事情を聴いた後、朝青龍からも聴取したいとしている。

 麻布署によると、男性は16日午前4時ごろ、東京都港区西麻布を車で通り掛かった際、交通事故処理中の同署員に「車内で朝青龍関に暴行された」と訴えた。朝青龍は車内にいたが、男性が「謝罪してくれるなら被害届は出さない」と述べたため、同署は詳しい事情は聴かず、朝青龍が泥酔していたため、そのまま帰した。男性はその後、朝青龍から謝罪がなかったため、弁護士と協議。鼻骨骨折など全治1カ月との診断書を持って、初場所終了後の25日になって同署に相談に訪れた。被害届は提出していない。

 警視庁が事情聴取へと動きだす中、朝青龍は、東京・両国国技館で行われた元幕内皇司の若藤親方の引退相撲に参加した。ちょうど師匠の高砂親方が、武蔵川理事長に男性との示談が成立したと報告していたころ、堂々と横綱土俵入り。取組では横綱白鵬と結びの一番も務め、「西麻布!」のかけ声の中、白鵬の上手投げに頭から転落した。西の支度部屋に戻ると仏頂面で、「一般人を殴った?」「本当に暴力を?」といった報道陣の問いかけには答えず、無言を貫いた。日馬富士らに笑顔で声をかけ、努めて平常心を装うようだった。

 関係者によれば、場所入り前は高砂親方に「どうすればいいか」と、対応を相談したという。騒動の発覚当初は、被害者として個人マネジャーの一宮章広氏が名乗り出て、身内の問題として日本相撲協会からも口頭による「厳重注意処分」で終わっていた。だが、甘く見ていた“ウソ”の代償は大きかった。一宮氏は「忙しいので。何も話さないので、スイマセン。明日か明後日か…」と話し、朝青龍とともに足早に引き揚げた。

 31日には、同じ高砂一門の元幕内潮丸の東関親方引退相撲が両国国技館で行われ、朝青龍は参加する予定。示談にめどが立ち、後は協会の処分を待つだけという状況だったが、傷害罪は、被害者の告訴が必要な親告罪ではないため、男性の被害届がなくても事情聴取や立件は可能。警視庁が事情聴取へと動いたことで、状況は大きく変わってきた。