1日の日本相撲協会理事選挙で、所属する立浪一門の意向に反して貴乃花親方(元横綱)に投票し、退職意思を表明していた宮城野部屋付きの安治川親方(36=元前頭光法)が3日、わずか20時間で「撤回」を発表した。深夜の退職会見から一夜明け、親方の退職に発展した「造反者捜し」に、協会を所管する文科省やファンから選挙の公正性を問う声が上がり、一門の長になる友綱理事(元関脇魁輝)らが慰留した。貴乃花親方が逆転当選した理事選は、支持者の退職騒動という「お騒がせ」まで生んでしまった。

 20時間のドタバタ劇だった。退職表明から一夜明け、安治川親方は連夜の会見を行った。前夜の「すがすがしさ」はない。冒頭に頭を下げ「一門のご厚意で協会に残らせてもらいます。また一から勉強して残らせていただきます」と明かした。3日午前0時に1度は角界を去ることを発表した。同午後8時。一転しての残留宣言だ。

 別れを告げたはずの一門の長が慰留した。朝、立浪一門ただ1人の理事となった友綱親方が、宮城野部屋を訪れた。「どうして早まったことをしたんだ」。同理事は事前に「退職」の連絡がなく、報道を通じて初めて知ったという。「昔から知ってるのにね。何も聞かされなくて、悔しいよ」。目に涙を浮かべ、再考するよう説得した。

 安治川親方は、同世代の貴乃花親方(元横綱)に共鳴。1日の理事選挙では一門が推す大島親方(元大関旭国)ではなく、貴乃花親方に1票を投じた。その結果、8票だった大島親方が落選。選挙後は連日、一門の「反省会」で“犯人捜し”が行われ、2日に造反したことを告白した。

 一門内から糾弾され、責任を感じての退職表明に、この日、協会には「なんで辞めさせるのだ」の電話が止まらず、“犯人捜し”への批判が相次いだ。選挙の公正性に疑いが出るため、監督官庁の文部科学省からも事実関係の確認があった。文科省担当者は「事実関係の確認の後、対処をどうするかとなる」と話していた。

 強烈な逆風に「立浪から追い出したと思われる」と友綱理事。一門にはもう1人、貴乃花親方に投票したと思われる親方がいるが「捜すとかはない」と、造反者割り出しの終息を宣言した。ただ協会関係者によれば、今回は伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)の意向に反したため、安治川株と時津風一門のある株との名跡交換を進めているという。

 立浪一門の残留宣言をしても、安治川親方は「一門の枠を超えて、貴乃花親方を支持した気持ちは変わらない」と言い切った。友綱理事は「きついことを言われるかもしれないが、それを超えて勉強してほしい。これも責任の取り方」。辞める意思を撤回した先には、一門の「いばらの道」が待つことになる。【近間康隆】