大相撲の高田川部屋が30日、朝稽古をインターネットで生中継した。角界初の試みで、午前9時から約1時間半にわたって、迫力ある映像を世界に届けた。稽古のオープン化は、ファン層の拡大や新弟子獲得につながる。伝統ある相撲界も、ITの波に乗り始めている。

 高田川部屋に、早朝からマルチメディア端末「iPad」やパソコン3台、ビデオカメラが運び込まれた。午前9時から稽古の生中継開始。申し合いやぶつかり稽古など、迫力ある映像が配信された。時に高田川親方(43=元関脇安芸乃島)は「やる気のないやつは、辞めて帰れ!」と容赦なく叱りとばす。この声もマイクに拾われ、生々しく伝わった。

 稽古の後は、全力士が順番にカメラの前で新年の抱負を述べた。髪を結ってもらう様子も中継すると、閲覧者から「お相撲さんの髪結いって初めて見ました」とのコメントも寄せられた。ほとんど告知はなかったが、一時は60件のアクセスがあった。

 仕掛け人となった後援会事務局の井坂英雄さん(52)は「稽古を見たことがない人も多いので、興味を持ってくれたらいい。悪いイメージもあるけど、見てもらえれば払拭(ふっしょく)できる。親御さんにも見てほしい。来年もやりたい」と話した。力士の家族は、息子の成長を確認できる。ファンの拡大にもつながる。角界初の試みは、大きな可能性を秘めている。

 20歳の幕下竜電は「いつも通りに稽古ができた」と話し、16歳の三段目達は「ちょっと恥ずかしかった。中学時代の監督に見てもらいたい」と恩師を思いやった。31歳の剛力山は「これを見て、相撲に興味をもってくれる人がいたらうれしい」と歓迎した。

 07年に時津風部屋で力士暴行死事件があり、密室での稽古は世間に悪いイメージを残した。しかし、ネット中継すれば、世界に健全公開することになる。高田川部屋では28人の力士が日替わりでブログを更新し、ビデオ録画した稽古の映像を見て、力士同士による討論も行っている。高田川親方は「我々は相撲道に精進するだけ」と言って多くを語らないが、愛弟子を強くするため、広くアンテナを張っている。【佐々木一郎】