<大相撲春場所>◇14日目◇24日◇大阪府立体育会館

 関脇鶴竜(26=井筒)が大関琴欧洲(29)を下手投げで破り、大関昇進を確実にした。13勝目を挙げ、昇進の目安となる直前3場所合計33勝に到達。審判部も昇進をはかる会議の招集を決めた。モンゴルで手紙を書き、入門を直訴してから11年かけ、ついに大関に到達した。千秋楽の豪栄道戦に勝てば、初優勝が決まる。

 全身を駆使して、鶴竜が投げた。右四つから琴欧洲が寄ってくる。右足をはねながら、下手投げ。2メートル2センチの巨体を1回転させた。通算400勝目は、大関の座をたぐり寄せる白星。「あぁ、勝ったな…」。勢い余って、相手の上に乗っかりながら実感した。「とにかく我慢と思って、流れで思い切り行きました」。

 初の13勝で、3場所合計33勝。1横綱4大関を破り、審判部も昇進へ異論なし。「まだ、そんなに実感はないですけど」とつぶやいたが、井筒親方(元関脇逆鉾)への気持ちを聞かれると「いっぱい怒られて、いっぱい注意されて…。自分のために常に言ってくれた。本当に感謝しています」と話した。

 日本相撲協会と雑誌社に手紙を書き、入門を志願したのは01年4月23日。あれから3988日。180センチ、72キロの細身だった少年は、反骨心と明晰(めいせき)な頭脳で強くなった。

 父は大学教授で、昨年には学部長に昇格。「向こうで大学の先生といっても、給料はよくない。日本に来た時『ボンボン』とか『金持ち』と言われて腹が立った。バスケをやっていたのに、バッシュを買えなかった」。実家のマンションは1LDKで、自分の部屋はない。ハングリーだった。覚悟を決めて来日したから、苦しくてもやめたいと思ったことはなかった。「納豆は最初から食べた。兄弟子たちは『オエッ』って言うと思っていたみたいで、普通に食べたらびっくりしてました」。徐々に体重を増やし、番付を上げた。

 力士数6人の小部屋だが、あえて若い衆に押し込ませて負荷をかけるなど、工夫を繰り返す。実戦形式は、出稽古で補った。井筒親方は「最近は欠点も少なくなった。丸10年たつけど、のみ込みが早かった」と話す。父からの恩恵は、経済面より頭の良さにあった。

 千秋楽には初Vがかかる。関脇以下の優勝は、01年の琴光喜以来。親方は白鵬に勝った9日目から白いワイシャツを変えず、験を担ぐ。優勝パレードの打ち合わせも始まった。「なるべく、そういうのは考えず、いい相撲を取れるように、最後まで頑張りたい」と鶴竜。荒れる春場所。主役の座は渡さない。【佐々木一郎】