<大相撲名古屋場所>◇8日目◇20日◇愛知県体育館

 エジプト出身で西前頭3枚目の大砂嵐(22=大嶽)が、30度目の優勝を狙う全勝の横綱白鵬(29)に大善戦した。相手十分の体勢で1分以上粘り、館内を沸かせた。最後は上手投げに屈し、史上初の初挑戦から横綱3連破の大記録を逃したが、怪力で最強横綱をてこずらせた。

 現役最強の白鵬を、大砂嵐がてこずらせた。持てる力を出し切った、1分12秒9の大相撲。最後は横綱の上手投げに屈し「ハー、ハー」と息を荒らげて引き揚げたが、満員の観客の拍手は鳴りやまない。白鵬に1分以上取らせた平幕力士は、10年初場所8日目に1分7秒1で敗れた当時西前頭3枚目稀勢の里以来。「(白鵬は)強かった」。負けた大砂嵐の顔には、充実感を示す笑みすら浮かんだ。

 堂々と勝負した。立ち合いで右を差し、胸を合わせた。横綱十分の右四つがっぷりになったが、簡単には崩れない。腰を振られ下手を離しても、必死にこらえつかみ直した。右腕に力を込め、こん身のすくい投げも仕掛けた。体勢を崩した白鵬が右足だけで踏ん張る場面もあった。

 師匠の教えを守った。稀勢の里戦や前日の豪栄道戦でも見せた顔狙いのかち上げは、相手を傷つける危険もあり大嶽親方(元十両大竜)から叱られていた。「それで勝って、何がうれしいのか。かち上げで、上に上がった人間はいない。あなたの夢は?

 横綱になることだろ」。そんな師匠の言葉が効いたか、かち上げるそぶりもなかった。

 大嶽親方は「これが若手らしい堂々とした真っ向勝負」と言った。鶴竜、日馬富士を撃破しても静まらなかった怒りが、ようやく収まった。「今日は褒めてあげたい。間違いなく力をつけていることを証明できた。横綱に少しは抵抗もできた」と弟子をたたえる言葉も口にした。

 堂々と勝負したからこそ、課題も感じ取れた。「横綱は横綱。相撲がうまい。前に行きたかったけど、バランスが強い。横綱の筋肉は柔らかい。オレの筋肉は硬いから疲れやすい。横綱の取組を勉強したい」。謙虚な心で鍛錬すれば、最強横綱を倒せる日はきっと来る。【木村有三】