<大相撲秋場所>◇13日目◇26日◇東京・両国国技館

 東前頭10枚目の逸ノ城(21=湊)が横綱鶴竜(29)を破って12勝目を挙げ、優勝争いで横綱白鵬(29)に並んだ。目の前で全勝の白鵬が大関豪栄道に負けても冷静。立ち合い変化で、はたき込んだ。73年秋場所の大錦以来となる新入幕金星獲得だけでなく、初土俵から5場所目は武双山の7場所を2場所更新した。1914年(大3)5月場所の両国以来100年ぶりの新入幕優勝に向け、14日目に白鵬と1敗同士の大一番に挑む。

 逸ノ城が史上初の「ザンバラ金星」を、いとも簡単に手に入れた。「なんか夢の世界に来たみたい。自分でもビックリ」。入門5場所で、初めての結び。テレビで見ていた座布団が舞う光景も、目に焼き付けた。「横綱に勝つのは(大関戦より)うれしい」。ニコッと少年のように笑った。

 「最初から決めていました」。11日目の稀勢の里戦に続く、左への立ち合い変化は朝稽古後に決めた。土俵下で全勝の白鵬が負け、1敗で並んでも「自分の相撲に集中していました」。わずか0秒9。館内は殊勲への称賛と、鶴竜との真っ向勝負を期待していたファンのため息が交錯した。

 「本当はダメですけれど、何もできないよりはいい。落ちなかった時にも左上手を取って自分の形になる、次のことも考えて」。場所前の出稽古で鶴竜の胸を借りた。正攻法で当たり、何もできずに7番すべて寄り切られた経験から導き出した勝利至上の答えだった。

 温厚な性格だが、16歳で来日後、1度だけ怒ったことがある。鳥取城北高1年時にいじめにあった。長髪や優しい顔立ちを、同級生に「女みたい」と挑発された。無視を続けると、体育の授業中にいきなり殴られた。「デブだから走れないだろ~」。逃げる相手を追わず、後日の体育の授業中に首を両手でつかまえて持ち上げて謝らせた。「くるって回してたたきつけました」。モンゴルでの遊牧生活はオオカミなどの外敵から夜中でも家畜を守ってきた。獲物を的確にとらえる方法を考える能力も高い。

 今日14日目は白鵬と1敗対決。100年ぶりの新入幕優勝へ、一番憧れてきた舞台が用意された。「本当にうれしい。負けてもいいので思い切りいく」。ザンバラ髪を振り乱し、31度目優勝を狙う大横綱の胸にぶち当たる。【鎌田直秀】

 ◆逸ノ城駿(いちのじょう・たかし)1993年4月7日、モンゴル・アルガンハイ県生まれ。本名アルタンホヤグ・イチンノロブ。モンゴル相撲と柔道の経験があり、10年に鳥取城北高へ相撲留学。卒業後、同高コーチを務めながら13年9月の全日本実業団選手権で個人優勝。今年初場所で幕下15枚目格付け出しで初土俵。得意は右四つ、寄り。家族は両親と妹、弟。192センチ、199キロ。太もも92センチ、足31センチ。

 ◆100年前の新入幕優勝VTR

 1914年(大3)夏場所(10日制)。新入幕で東前頭14枚目だった両国(当時22歳)は初日から7連勝。8日目は対戦相手が休み、残り2日も連勝して9勝1休(当時は不戦勝なし)で終了。同成績なら番付上位者が優勝という決まりがあり、横綱太刀山は8日目まで7勝1休で残り2連勝なら優勝だったが、9日目の朝潮戦が同体=預かりとなる。当時は同体取り直しがないため、結局太刀山は8勝1休1預かりで終え、両国が優勝。