<大相撲九州場所>◇3日目◇11日◇福岡国際センター

 珍事が起こった。東前頭3枚目の高安(24=田子ノ浦)が、横綱日馬富士(30)を破った。決まり手は「勇み足」。横綱の勇み足で平幕が金星を得るのは、72年春場所の横綱北の富士-前頭筆頭貴ノ花以来42年ぶり。あまりに珍しく、日本相撲協会広報部も金星がつくかどうか困惑するほどだった。

 激しい攻防が、思わぬ結末を呼んだ。しゃにむに腕を回転させる高安。突っ張り続け、決して止まらない。「受けに回らないよう、手数を出していこう」と日馬富士の厳しい攻めをはね返す。これが横綱を慌てさせた。右を差されても、回り込みながら突き落とし気味にいった。その瞬間、砂がはねた。体勢を崩した横綱の左足が、土俵を割った。その後も相撲は続いて両者倒れ込むが、軍配は高安に。金星!

 ただ、その決まり手が混乱を生んだ。

 「勇み足」

 場内でアナウンスされると、どよめきが起こった。「軍配がどっちに上がったかも分からなかった」という高安は、支度部屋で聞くまで決まり手は「突き落とし」だと思っていた。「勇み足?

 しっくりこないなぁ」。なぜなら横綱が、自ら足を出したとした決まり手。金星にならない「反則」とは違うが、相手の“過失”は金星と認められるのか。分かっていなかった。

 横綱の勇み足は96年夏場所8日目の曙以来。だが、相手の貴闘力は関脇で、金星の対象となる平幕ではない。日本相撲協会の広報担当は「金星だとは思うんですが…」と、断言できなかった。それもそのはず。横綱が勇み足で平幕に敗れるのは72年春場所7日目に、西前頭筆頭の貴ノ花に敗れた北の富士以来42年ぶりだった。

 結局は金星。高安は通算3個目の金星を、いずれも日馬富士から獲得した。場所前、部屋の大関稀勢の里に「高安が調子がいいので、出稽古しなくてもいいかも」と言わしめた反応の良さで、初日から3連勝を飾った。「1勝は1勝」と気を引き締めつつ「気持ちよく明日をまた迎えられる。自信になります。明日からの相撲も自信を持って取り組みたい」。鼻息を荒くして、帰途に就いた。【今村健人】

 ◆横綱の勇み足

 96年夏場所8日目に曙が、貴闘力戦で黒星を喫して以来。勇み足での金星配給は戦後4度目で、最近では72年春場所7日目に北の富士が、貴ノ花(初代)に敗れて以来。他に、56年春場所8日目に栃錦が東前頭筆頭の琴ケ浜に、58年初場所3日目に千代の山が西前頭2枚目の岩風に、勇み足で金星を配給している。

 ◆金星

 平幕力士が横綱から奪った勝ち星。三役(小結)以上が勝っても金星にはならず、横綱の反則負けや不戦勝も認められない。金星を挙げた力士は場所ごとに支給される力士褒賞金(給金)が10円加算され、実際には4000倍した4万円アップする。金星の配給は北の湖の53個が最多。角界では「なかなか射止められない」ことから、美人のことを金星とも呼ぶ。