第330号 1面記事 決意の弓が導く全国制覇正射必中の吉澤、三矢が射当てた頂点 大会前日。吉澤(農4)は眠れぬ夜を過ごす。「前の二人の重荷になるかも」。夜明けと共に最後の全日本インカレが始まる。だが前日までの練習も当たって2中。責任者として“私が引っ張らなきゃならないのに―”。肝心なところで外すのではないか。数十時間後、自分が優勝旗を手にするとは知る由もなく、不安でいっぱいだった。 五里霧中 昨年から団体戦は徳永(文3)、石本(文3)と共に戦ってきた。吉澤は3年次に落に任命されてからずっとこの3番手を務めている。落は“ピンチな時に助けてあげられる”役。「吉澤はプレッシャーに負けない強さがある」(小野・理工4)。昨年の全日本王座決定戦準決勝でも勝利が懸かった一矢を当て本学を準優勝へ導く等、勝負どころでいつも結果を出してきた。「的中や射型が完璧だから後ろにいてくれると安心」(徳永)。そんなエースへの信頼は絶大だった。 だが最上級生となった今年。責任者になった吉澤を待っていたのは、いばらの道だった。思うように練習時間が取れない日々。「下手になった」(吉澤)。“当てるぞ”という気持ちに当たりがついてこない。優勝を狙っていた関東インカレも、結果は4位の惨敗。大きな大会で成績が残せない。“私が当てなきゃ”というプレッシャーがエースの肩に重くのし掛かっていった。 百発百中 調子が戻らないまま全日本インカレの幕が開く。試合が始まるまで何度もトイレに行った。吐きそうになる。極度のマイナス思考――。だがそんな吉澤を復活へと導いたのは、共に戦ってきた後輩達だった。吉澤の不調を知りつつも黙って復活を信じ、「負担を掛けたくない」(石本)と練習に励んできた二人。「油断やすきが消えていた」(吉澤)。そんな後輩を前に、エースは吹っ切れる。「前が当ててくれるので、自分で自分を追い込まなくなった」。大船に乗ったつもりで弓を引き続け、プレッシャーなど微塵も感じさせない堂々とした射を見せつける。予選から決勝まで射った24本の矢。その全てを当てるという快挙。「吉澤がいたからこそ3人の力が出た」(正田コーチ)。本来の力を取り戻した吉澤が率いる本学に勝てるものはいない。一気に王者への階段を駆け上がった。 一陽来復 「優勝は目標だったけど、実際にできると思っていなかった」(吉澤)。後輩が用意してくれた最高の舞台。そしてその思いに答えた深い霧の中からの復活劇。表彰式後、優勝旗を手に記念写真に収まる吉澤の顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。