紙面より 2003年 早明ラグビー号

キング大田尾 歴史刻む

主将
 不動の司令塔・大田尾竜彦。今の早大ラグビーを語る上で、この男なくしてそれは成立しない。敗北の悔しさ、勝利の喜び。勝者にのしかかる重圧、停滞の不安。長い低迷から劇的な変化を遂げて、頂点まで上り詰めた4年間の激動の中で大田尾は言う。「早稲田でラグビーをしているこの運命に感謝する」。
 整った設備と優秀なスタッフに大勢のファン。早大の主将を担う大田尾にはそれらを背負う自覚が常にある。早大強しと評判も上々だった春。しかし最後に待っていたのは宿敵・関東学院大に惨敗という大きな試練だった。なすすべなしの早大に、困惑する大田尾。「ぬるま湯につかっていた」。恵まれた環境にありながらも結果を出せない。試合後に見せた涙は、ふがいない自分への自責の念で溢れていた。今季の主力は若手やルーキーが多く、春季では彼らが組織として機能するまでには至らなかった。しかし、経験のなさゆえの未熟さに目をつぶってでも、その伸びしろに掛け続けた。そして迎えた対抗戦開幕直前のケンブリッジ大戦の快勝は、新戦力が歯車としてかみ合い出したという一つの証しとなる。大田尾は彼らをサポートするようなカバープレーに重点を置き、それが今のチームの快進撃の根底を築き上げた。

10番
 一プレーヤーとして大田尾の非凡さは、パス一つからも垣間見ることができる。トップスピードで走りこんできた味方の胸にすっぽりとバールが収まる。スピード、距離、タイミング。そのすべてを兼ね備えた心憎いまでのパスが、早大の展開に一層のスピードを生む。そして当然、大田尾の選択肢はそれだけにとどまらない。「仕掛けることで存在感を出す」と言うこだわりのアタックも、重要な攻撃の要素となる。「前にあれだけのスピードで走りながら、横を見つつ前を見るのは竜彦さんにしかできない」(後藤翔太=教3)。タテか、ヨコか。背番号「10」のプレーには、そのチームのラグビー哲学が濃厚に映し出される。「SOは常に勝利への正確な道しるべでなければならない」。その一瞬の判断こそ、ワセダラグビーを熟知する者のみがなせる圧巻のプレーだ。

誇り
 「ワセダの使命は勝利」。司令塔として絶対的な存在を確立した大田尾が、早大を背負う主将としてたどり着いた答え。熱く胸を焦がした4年間。そのすべてを経てつかんだ勝利への執念は、自分自身への信念となった。部史上初の3年連続対抗戦全勝優勝へ、全人格を懸けて臨むと誓ったラストシーズン。早大の疾走にもう陰りはない。威風堂々、アカクロの誇りを胸に受け継ぎし知将・大田尾竜彦。今日、ワセダラグビーにその名が刻まれる。
(吉田みき)


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