HP特別連載コラム Hot Corner

「Hot Corner」。それは三塁を指す英語です。右打者が思い切り引っ張ると、打球は三塁方向に飛んでいきます。スイングスピードも乗った鋭い打球が多いことからそう呼ばれる、というのが有力な説です。昔からホットコーナー・三塁手は野球の華と言われてきました。有名どころでは長島茂雄・読売巨人軍終身名誉監督、近鉄バッファローズ・中村紀洋選手など大物ぞろい。私たち早スポもそれに負けないようなホットな文章を作っていきたいと思って、このようなコラムを作りました。野球に関するあらゆるテーマを扱います。どうぞご期待ください。

第4回 脇役に栄光あれ!
文・松浦梨絵
 シーズンのチーム打率やチーム得点数などの記録を塗り替え、六大学リーグ戦を3連覇した早大。大学選手権ではまさかの敗退を喫したが、その力は秋も健在だ。圧倒的な打力を誇り、甲子園を沸かせたスター選手で固められた早稲田は見ているだけでわくわくしてくる「ドリームチーム」。もっと観たいという気分にさせてくれる。

 そんな気持ちでオープン戦にも通ったわけだが、このオープン戦を見ていて感じた「私だけのイチオシ選手」(あまりベンチ入りを経験していない選手が対象)が東大戦にも出場し、活躍してくれたのが何よりもうれしい。オープン戦から見続けた選手が公式戦でも活躍する姿を見ると、少し勘違いしがちな私は親か姉のような気分になってしまう。ベンチにいるだけでも拍手、また出てきた瞬間には心の中でガッツポーズ。活躍しようものならば、隣にいるサークル員に「見た?見た?」としつこくアピール。全くはた迷惑なこと極まりない。

 そこでひとつ、「応援には来るけど鳥谷くらいしか分からないなー」という人、「スタメン以外は何がなにやら…」という人にもオススメしたいのが「もっと自分のお気に入りを見つけてみようよ!」ということである。今年は確かにスター選手が多く、どの選手を見ても楽しくわくわくするものであるが、それ以外にも必死でアピールを続ける控え選手がいるということを見て欲しいのだ。特に入試制度などで実力あるスター選手が毎年入ってくる環境では、実力校出身の選手ですらスタメンに残ることは難しい。そんな選手が試されるオープン戦や練習を、一度見に行ってみてはどうか。

 早大の寮がある東伏見の球場はグラウンドレベルで観戦ができる球場だ。熱心なワセダファンがやってくる。一種独特の空気に包まれたその球場ではサバイバルレースが続いている。下級生から4年生まで、公式戦出場の機会を自ら待つのではなく、自分のその手で掴み取ろうとしている。ひたむきな姿を見れば、心惹かれる選手もおのずと見つかる。そんな選手の出場を心待ちにするのも、楽しみ方の一つだと私は思う。

 ちなみに私が夏休みからイチオシしているのは早実出身のM選手だ。今後も彼の活躍を、早大の4連覇とともに見届けたいものだ。(私が3年生のため、卒業まで見届けられないのは残念だが。)

第3回 夢はいつまで続くか
文・檜山洋一
 巨人が日本シリーズで近鉄相手に3連敗のち4連勝、日本一に輝くという痛快極まりないシーズンからプロ野球を見始めて、取りつかれ、もう十年以上も経った。あの頃僕はメジャーリーグなんて全く知らなかったし、世の中の大多数だっておんなじ様なものだったろう。そして、そのときすでにプロだった選手たちだって、メジャーなんて選択肢にはなかったと思う。

日本のプロ野球は本当にレベルが上がった。映像で見れば一目瞭然。まずガタイが違う。そのプレーを形容するなら、「スピーディーでパワフル」になった。そんな過程で、野茂英雄、イチロー、松井秀喜など、今までありえなかったタイプのものすごい選手が現れ、同様に今までありえなかったメジャーという道を選んだ。

 野茂、イチローの活躍は言うまでも無い。松井だって、最近目覚めつつあるように必ずやってくれると信じているし、あのヤンキースのクリーンアップを張っているだけでもとんでもないことだ。そんな2003年現在、彼らの奮闘ぶりを伝えるスポーツニュースなんかを見るたび「何か、夢みたい」と思うことが多々ある。この素晴らしい選手たちの、世界最高峰にあっての大活躍は紛れも無い現実だけど、自分が野球を見始めた頃からの進歩の速度が速すぎるせいで、どこか非現実的な印象を持ってしまうみたいだ。僕は今、本当に幸せな夢を毎日毎日、彼らに見せていただいている。

 それと同時に、またよく考えるのは、この幸せな夢はいつまで続くのかなあということ、上に挙げた三選手に続く選手はいるのかなということだ。とりあえず今メジャーに渡ったほかの選手たちの中には見当たらない気がする。それで、日本のプロ野球に目を移すと、これもまた疑問符がつく。上の三選手に共通しているのは、日本のプロ野球に残っていたならば必ずや何らかのプロ野球新記録を達成していただろうということだ。つまり、彼らは球史に名を残せるくらいの力を持っていた。

そういうわかりやすい基準で見渡すと、今の日本のプロ野球では、西武の松井稼頭央、そして松坂大輔くらいかなと思う。この夢はこの先十数年は安泰ということになるが、自分がオジサンになる頃には・・・。うーん。

 なんて暗い予想よりも、実は楽観的な希望の方が勝っていたりする。きっと野茂や、イチローや、松井のときと同様、まだ見ぬものすごい才能が、まさに彗星のごとく現れるのではないかなどと思ってしまうのだ。そして日本を飛び出して、メジャーを席巻してくれるのではないかと。こういう状況は、よく日本プロ野球の衰退を招くと言われがちだが、僕は大いに結構だ。メジャーを志す選手が増えることは、必ず日本プロ野球の発展につながるのだから。そして何より、一昔前までなめられてさえいた日本プロ野球が育んだ才能が、メジャーをキリキリ舞いさせるということ。これがたまらなく愉快痛快だ。

この夢はきっと、これからもずっと続く。

第2回 Run to the next base, if you can ―判断ある好走塁を―
文・茂野聡士
 六大学野球開幕戦、早大対東大の2回に、鳥谷が魅せた。
 早大の攻撃で1死満塁、スコアは2−0と、大量点を挙げて一気に試合を決められる場面。このチャンスで鳥谷はきっちりとセンター前2点タイムリーを放つ。鳥谷の打撃力をもってすれば、当然の結果なのかもしれない。
しかし、そこでは終わらない。1塁走者が3塁を狙い、東大のセンターがサードに送球した。それと同時に、鳥谷は迷うことなくセカンドを狙う。サードも慌てて送球するが、セカンドも悠々とセーフ。結果、チャンスは2・3塁となおも広がり、このあと3点を追加し、勝負を決めた――。

 一方で翌日の2回戦、早大に幾つかの走塁ミスが出た。その中でも目立ったのが、同じく2回のプレーだった。このイニングに2点を取り3−0とし、なおも無死1・2塁。迎えるバッターは2番青木宜。確実に送って鳥谷に回すもよし、青木宜が強攻策に出てもよし。
ところが、この何でもできる状況で、2塁ランナーの清水が大きく飛び出してしまい封殺されてしまう。結局このミスの後に取った点は1点だけ。試合後、野村監督も「何もあんな場面で飛び出さなくても…」とコメントを残した通り、前日と同じ大量得点のチャンスをみすみす逃してしまった――。

 『足にはスランプがない』。足の速い選手をほめる時の常套句だ。ただこの言葉を使う時、どんな選手でも努力次第で手に入れられるものである、判断力の「早さ」について触れていることは少ないのはなぜなのだろうか?
確かに鳥谷は、50b6秒0の俊足選手である。しかしそれ以上に、相手の守備力や肩の強さ、プレーへの集中力を一瞬で見切る判断を鳥谷はやっていた。もしそれをやっていなければ、どんな俊足を持っていようともコンマ数秒の遅れを引き起こしてしまう。
 東大戦は実力差もあって、2戦とも大勝はしたが、今後は1点を争う厳しい場面も増えてくるはず。走塁でも、1つのミスでゲームの流れは動いてしまうのだ。

 もう1つの塁を狙う積極性はスリリングだし、野球の醍醐味である。だが、それが単なる暴走では偶然性に頼ったものだ。決して次の塁を狙うだけが走塁ではない。
 好判断の走塁を。それは投手にしても、足が速くない野手にしても、早大が六大学3連覇を目指すためには、ぜひ心がけてほしい。

第1回 BASEBALL IS ART −野球は芸術だ−
文・松浦梨絵
 巨人ファンだ、と言うと何故か軽蔑される雰囲気がある。野球を知らないからスター選手が多くいるチームがいいんだろ、といった見方をされることすらある。私は巨人のフロントは大嫌いだが、巨人というチームは好きだ。それは何故かというと、使い方すら間違えなければ、必ずやすごい野球を見せてくれる、と信じているからだ。だから毎年オフ、せっかくまとまりかけたところでまた有力選手を手当たり次第取ろうとするのを見ては歯痒い思いをしている。
 そんな私の愛すべきチームの中で、私が1番「すごい」と思っている選手について今回は語ろうと思う。それはエースナンバー・18を背負う男、桑田真澄だ。彼についても入団の経緯などから偏見や反感を持つ人は多い。しかしそんなこと、ちっぽけなことだと思わせるような魅力が彼にはあると思っている。

 私が桑田のファンになったのは、どういうわけか全く勝てない年だった。「連勝ストッパー」と呼ばれ、野次が飛んでいた。それでも彼は黙々と投げつづけていた。小学生で、野球がどんなスポーツかわかっていなかった私が桑田のどこに惹かれたのかは分からない。でも、それから嫌いになったことは一度もなかった。
 それからの桑田はMVPを取る活躍を見せてくれたと思えば、守備の際のダイブで肘をケガして1年を棒にふったり、ひどい時は中継ぎに回されて桑田らしいクレバーさが発揮できないシーズンもあった。一昨年は不本意な成績に終わった桑田について、引退説がまことしやかに囁かれた。私は非常に腹が立った。引退説を騒ぐマスコミと、そんな状態にさせた首脳陣に対して。

 そんな中、昨年の桑田は先発に戻ると見事に蘇った。一昨年のことが嘘だったような快投を見せ、14勝を挙げた。私がファンになった頃の球速はない。しかしそこには、以前より格段にすごくなった投球術とコントロール、そしてため息が出るような美しい投球フォームとフィールディングの桑田がいた。まだ素人知識しか持っていない私ですら、その姿に魅入られた。完投、完封がかかった試合はテレビの前にかじりついて見ていた。とにかく美しかった。投げ終わった後の、丁寧なインタビューの受け答えまでも…。

 私は最近気づいたことがある。私が今、桑田ファンであるわけだ。それは「美しさ」。投球、守備、走塁、打撃。すべてが美しい。美しいとは体の動きがしなやかであるだけではない。すべての行動が、確固たる考えに基づいて遂行されていることだと思うのだ。そして野球というスポーツを心底愛しているその気持ちが、こちらにも伝わってくる。今、桑田から感じることは、「野球は芸術だ」ということ。ひとつの完成した芸術品を追い求めて、彼はプレーしていると思う。私は野球人・桑田の芸術をこの目に焼きつけ、見る側からその美を追い求めていきたい。


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