ドジャース大谷翔平投手(29)の誕生で、カリフォルニアを訪れる日本人がますます増える。“最高のプレイグラウンド”を全世界にPRするカリフォルニア観光局のプレスツアーに日刊スポーツの野球記者が参加。市販ガイドブックにはない魅力を探した。

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ロサンゼルス圏の海岸から130キロほど、車に揺られた。仮眠するほど長い旅程だったのに、ロサンゼルス~ニューヨークの4650キロの約3%に過ぎない。どれだけ広いんだ。

テメキュラに着いた。山に囲まれた海抜500メートルほどの街。先住民の言葉で「太陽と霧が出会う場所」という意味だそう。約50カ所のワイナリーがある。最古は50年前に創業の「キャロウェイ」のワイナリー。ゴルフメーカーで有名だ。

5番目に古いダンツァ・デルソル・ワイナリーで、ジョン・ケリハー支配人が広大な敷地を案内してくれた。カートで走る。ブドウ畑には多くの穴が開いている。ネズミやリスの類いだそうだ。その対策に飼うのが「フクロウかタカ、ですよ」。まさかのフクロウ。日本では知床半島であっても会えれば幸運なのに。

テメキュラは海と砂漠の真ん中にある。「砂漠の熱が海の冷気を引っ張ってくるんです」。そんな風にさらされ、1日の寒暖差がブドウ栽培に適した大きさになる。「ブドウは甘やかしちゃいけない。過保護では育たない」。程よく自然の変化にさらし「名産地のナパより半額以上安いけれど質の高い」というワインの原料が育てられる。

テメキュラのワイナリーのブドウ畑を乗馬で進む
テメキュラのワイナリーのブドウ畑を乗馬で進む

ブドウ畑の敷地内には馬もいる。隣接するログハウスで借り、乗馬を楽しむことができる。私がまたがったのはウィッグという名の茶色い馬。8頭で一緒に歩き、たいていは3番手を歩くのに、たまに雑草を食べに寄り道してしまうマイペースな馬だ。ブドウ畑の丘でウィッグに身を委ねていると、リスが走っている。「RABBIT!」と訂正が入り、野ウサギの群れと知る。すごい世界だ。

ワイナリーをいくつか回った。「テメキュラはワイナリーの中に全てがある。何もかも」と話す人がいた。「ヨーロッパ村」はまさにそんな場所。フランス、イタリア、スペイン各国をイメージしたテイスティングエリアに、熱気球搭乗への発着点にもなっている。感動体験を終えたばかりの乗客に1杯の白ワイン。忘れられない日を彩る。

ワイナリーのブドウ畑と熱気球
ワイナリーのブドウ畑と熱気球

宿泊先は「カーター・エステート」というワイナリーのホテル。全室コテージのような作りの訳は、朝になって知る。窓を開けてテラスに出る。絶句。5歩踏み出せば農道で、その先にはブドウ畑が広がる。朝日が昇り、色とりどりの熱気球が舞う。聞こえるのは鳥のさえずりと、熱気球のバーナー音のみ。

仕事とはいえ、1人でこの空間を味わったことに強い罪悪感があった。いくらアメリカとはいえ、これを上回る空間はあるのか。テメキュラはワインなしでは語れない街だ。私はアルコールが苦手だけれど十分に酔える。「全ての景色を見たい」と思っている私でもまた絶対にここに来たい。テメキュラを忘れない。【金子真仁】(つづく)