時代の変化とともに、プロ野球界の人材育成も変化する。西武は指導者の育成改革の手段として、株式会社「チームボックス」のコーチングの手法を用いた長期伴走型トレーニングプログラムを本格的に導入し、5年目を迎えた。ファームの指導者、スタッフらを対象に毎年10人ほどが参加。瀬田千恵子取締役と同プログラムに参加する指導者のトレーナーを務める藤森啓介氏、守屋麻樹氏に取り組みなどを聞いた。【取材・構成=久保賢吾】

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株式会社「チームボックス」の瀬田取締役(同社提供)
株式会社「チームボックス」の瀬田取締役(同社提供)

「チームボックス」による育成プログラムは、集合研修(コーチングの基本スキル、コーチとしての姿勢などを学び、参加者全員で相互学習)、日々の振り返り(トレーナーに毎日のコーチングを含む実践を振り返り、言語化する)、現場観察(月に4回トレーナーが視察)、1on1(トレーナーと月に1回対面形式で対話)と4つのパートに分かれ、実施される。

瀬田氏 相互学習、仲間で学ぶことも大事な要素で、日々の振り返りもお互いに見られますし、現場でもお互いの指導を見られて、1人で学んでるよりも多くの学びを得られる。みんなで成長していくという形ができていると思います。

トレーニングでは目標設定力、評価力、質問力、傾聴・承認力、振り返り力、オープニング、クロージングの7要素に沿った基礎的なコーチングスキルを学びながら、実践していく。

藤森氏 我々のスタンスとしては、良かったところをまずは承認していこうと。指導する立場になると、どうしてもダメだしや改善点を言いたがりますけど、まずはできたところから伝えるようにしています。

守屋氏 「ここはよかったですね」と認めてから、「もし、ここにこういうのもあればもっといいですね」というようなコミュニケーションですね。

日々の振り返りでは「Feeba」と言われる独自の振り返り記録システムを使用。7要素が含まれ、このプログラム用にカスタマイズ設計された質問に対し、参加者は毎日回答する。

瀬田氏 日々、書いて振り返りを実践することを通じて鍛え、現場観察の時は見られてる中で実践で鍛え、1on1の時には直接トレーナーと対話する中で鍛えという感じで、個人の学びでも、トレーナーとの学びでも話したり、書いたりする中で内省し、言語化する能力が鍛えられる仕組みになっています。

藤森氏 言語化することは選手もコーチも取り組まれています。言語化力を上げるためには、コーチが必要なものをしっかり持たないと選手に対しての振り返りもできないので、互いが同時に学んでる中でそれを身に付けてもらおうと。

藤森氏はラグビーの指導者として、早大でコーチ、早稲田摂陵高で監督を務め、守屋氏は早大のアーチェリー部の監督を務めた経歴を持ち、スポーツ指導の現場を知る。

藤森氏 現役時代に早稲田で日本一を取って、同じようなやり方を高校生にやってもうまくいきませんでした。厳しくして決勝まで行きましたが、卒業生が学校に戻ってこなくて、それが本当にいい指導者なのかと。みんなが幸せでつながっていたいなという思いがあったので、ここに来てコーチングや人材育成の理論を学んで今があります。

長期伴走型トレーニングプログラムのトレーナーを務める藤森氏(左)と守屋氏(撮影・久保賢吾)
長期伴走型トレーニングプログラムのトレーナーを務める藤森氏(左)と守屋氏(撮影・久保賢吾)

守屋氏 スポーツのフィールドを別の競技で持っているので、例えば私たちの時はという形で事例はお話しできますし、汎用(はんよう)性みたいな部分もあるのでお伝えします。失敗して、あり方を変えざるを得なくなったという経験もしているので、気持ちがわかる部分もあります。

藤森氏 学び続けることは大事なことで、時代はどんどん変わっていきますし、求められるコーチングも時代によって変わってくると思うんですけど、そういった中で日々自分にベクトルを向けることが一番大事なのかなと思います。

トレーナー自身も同じ目線で日々学びながら、西武のコーチ、スタッフとともに成長を遂げる。トレーニング開始から4年がたち、西武の指導者が行うコーチングには明らかな変化が生まれた。(つづく)

◆藤森啓介(ふじもり・けいすけ)早大大学院スポーツ科学研究科を卒業。早大ラグビー部のコーチを2年間、10年からは早稲田摂陵高ラグビー部の顧問を務め、監督就任1年目に府大会で準優勝した。現在は東京都立大ラグビー部のヘッドコーチ、九州大ラグビー部のディレクター・オブ・ラグビーなど複数のチームを指導する。

◆守屋麻樹(もりや・まき)早大政治経済学部政治学科を卒業。04年から早大アーチェリー部ヘッドコーチ、10年からは同大では女性初の監督に就任した。人数不足で廃部寸前のチームを立て直し、全国大会準優勝へと導いた。現在は全日本アーチェリー連盟の執行役員、日本ボクシング連盟理事、東京都アイスホッケー連盟理事も務める。