16日から24日まで東北大会と関東大会を取材に秋田と宇都宮に出張した。

金足農対久慈 4回無死一塁で救援登板し、無失点で切り抜ける金足農・吉田(撮影・木村有優)
金足農対久慈 4回無死一塁で救援登板し、無失点で切り抜ける金足農・吉田(撮影・木村有優)

【16日】

東京から秋田に移動。午前7時32分の「こまち」に乗車。秋田を目指す。空いているかと思ったら席が次から次へと埋まっていく。私は窓側の指定席だったが、隣に同年代らしき男性が乗ってきた。結局、終点秋田まで一緒だった。

11時25分に秋田到着。駅前のホテルに荷物を預けてこまち球場へ。ホテルのフロントに聞くと1時間に1本バスが出ているという。バスの時間まで約20分。バスで向かうことにした。25分ほどで球場前に到着。360円だった。

こまちスタジアムに来たのは初めて。特徴はアーチのような巨大な屋根だ。実は、あとでこの屋根に救われることになる。グラウンドでは第1試合がまだ行われていた。聖愛(青森)-明桜(秋田)は開幕戦からいきなり延長タイブレークに突入。11回の熱戦の末、聖愛が6-4で明桜を下した。

記者席が満員だったのでネット裏スタンドで観戦。試合が終わり取材のため下に降りると河北新報のS記者と再会。岩手で行われた春の東北大会以来となる。この夏も昨年に続き仙台育英を担当したそうで2連覇こそ逃したが準優勝。さらに国体も追いかけて鹿児島へ。こちらは優勝。今年も「持っている記者」ぶりを発揮したようだ。

勝った聖愛の原田一範監督が興味深い話をしてくれた。今春から背番号をポイント制で決めるようにしたという。

公式戦前にまずはベンチ入り20人を監督、首脳陣で選出。

「背番号はポイントの高い選手から自由に選ぶようにしました。ポイントは選手間の投票で決めます。1人が3人を選ぶ。評価するのは野球以外のこと。声出しとか。ピッチャー以外の選手が1番を選んでもOK。実は春の大会でショートの子が1番を付けたんですが報道の方から『いつ投げるんだ?』と聞かれて困りました(笑い)」

聖愛は5年ほど前から丸刈りをやめ髪形を自由にした。「いかに高校野球というツールを使って人としてのキャパを広げるか。うちは冬の練習で大きく変わる伝統がある。育つ仕組みをこれからもつくっていきたい」

今夏、慶応の優勝で新たな高校野球像が注目された。何も慶応だけがトレンドではない。遠く離れた青森・弘前でも高校野球を変える取り組みが行われていた。

取材を終えると第2試合が始まっていた。秋田修英-古川学園(宮城)。午後2時過ぎに試合が始まったがどうも雲行きが怪しい。スタンドの名物屋根を激しくたたく音が次第に大きくなってきた。0-2で迎えた3回表2死三塁。ゲリラ豪雨のような土砂降りで一瞬のうちにグラウンドは水浸し。試合は中断され、雨の止むのを待ってグラウンド整備。なんと2時間25分後の午後5時3分に再開となった。

照明に明かりが灯りナイターに。スタンドで見ていたが急激に気温が下がり風も冷たい。それとは逆に試合は白熱。第1試合に続きタイブレークにもつれ込んだ。延長11回の末、秋田修英が9-6で勝利。試合終了は午後7時29分。試合時間は5時間28分だった。

取材を終えると8時を過ぎていた。球場前からのバスは5時半が最終。東北総局のH記者の車に乗せてもらい秋田駅へ。吉野家の牛丼を食べて長い一日が終わった。

【17日】

第3試合に金足農(秋田)が登場するということもあり、横手のグリーンスタジアムへ。秋田駅から午前5時54分の始発電車に乗って1時間10分ほど。かなりのスピードが出ているのか結構揺れる。角館を過ぎ、横手に近づくにつれ不安になってきた。それは道路が雨で濡れていたからだった。

1時間ちょっとで横手に到着。幸い雨は上がっていた。駅前のコンビニで朝食と昼食用のおにぎりを購入。「おむすび鶏めし」(130円)「手巻きおにぎり昆布」(130円)。それからせっかくなので秋田らしいものをチョイス。「おむすびいぶりがっこ炒飯」(155円)と「手巻き握りぼだっこ」(165円)を買った。「いぶりがっこ」は知っていたが「ぼだっこ」は初めて。おにぎり売り場に「塩辛く漬け込んだ鮭」との説明書きが添えられていた。これがおにぎりによく合った。4つ食べた中で自分的には一番。翌日も同じものをリピートした。もちろんお米は「秋田米」と売り場に記されていた。

おにぎりの話はここまでにしておいて、試合の方は。なんと第1試合開始直前になって激しい雨が…。せっかく砂を入れてグラウンド整備をしたのに一瞬のうちに再び水浸しに。おまけに激しい風でマウンドと本塁ベースに敷いたシートがめくれてしまった。しばらく待ったが中止に。ただ、秋田市内にある「こまちスタジアム」の試合は予定通り行われているという。急いでタクシーを呼び横手駅へ。そこである考えが頭に浮かんた。B級グルメとして有名な「横手やきそばを食べよう」。秋田への電車は1時間に1本程度しかなくまだ時間に余裕がある。焼きそばなら10分もあれば食べられる。そこで昼食用に買った2個のおにぎりは夕食に回すことにして焼きそばを食べて「こまち」に移動することに決めた。テレ東の人気番組ではないがタクシーの運転手さんに「駅近くの横手やきそばのおいしい店に連れて行ってもらえませんか」とリクエスト。すると運転手さんは「駅前にあるよ」と店の場所を説明してくれた。駅でタクシーを降りて教えてもらった「食い道楽」さんというお店へイン。カウンターに座って「横手やきそば」(600円)をオーダーした。具はひき肉とキャベツ。目玉焼きが乗っかって、紅しょうがではなく福神漬けが添えられているのが特徴だ。これがおいしかった。電車の時間が迫っているのでささっと食べたが大満足。腹ごしらえをして秋田へ向かった。

秋田駅からは同じ電車に乗ったフリーカメラマンのTさんと一緒にタクシーでこまちスタジアムへ。運転手さんから「最近、球場近くにもクマが出たので気を付けて」と言われ「ひーっ」。今秋、秋田県内でクマが多数出没しているというニュースは聞いていたが、まさか球場近くにも。今回の秋田出張でクマに出くわすことはなかったが、地元の人たちは大変だ。

昼すぎに球場に到着すると、なんとまだ、第1試合の真っ最中。延長13回、タイブレークの末、青森山田が9-8で聖愛に逆転サヨナラ勝ち。試合時間3時間51分の大熱戦だった。

第2試合は日大山形と聖光学院(福島)の好カード。こちらは日大山形が7-3で快勝。敗れた聖光学院・斎藤監督は「ミスが多かった。まだ甲子園に出るにはふさわしくないということ」と話した。

第3試合は学法石川(福島)が2-1で聖和学園(宮城)に競り勝った。背番号「2」を付けた学法石川の大栄利哉投手(1年)が好投。8月に捕手から投手に転向したばかりとは思えない投球で初戦を突破した。

取材を終えるともう夜の7時過ぎ。この日も同僚のH記者に駅前まで送ってもらいホテルへ。缶ビールで横手駅で買ったまま食べるのを忘れていたおにぎりを流し込んで寝た。

横手焼きそば
横手焼きそば

【18日】

この日も始発電車で横手へ。前日同様、おにぎりを買ってタクシーで球場へ。天気は大丈夫。第1試合は聖愛-鶴岡東(山形)。延長10回、タイブレークの末、鶴岡東が勝った。それにしてもタイブレークが多い。これで初日から3日連続の4試合目である。第2試合は優勝候補の八戸学院光星(青森)-仙台一(宮城)。光星が5-2で勝利したが宮城県有数の進学校である仙台一が善戦。これは21世紀枠の有力な候補になるかもしれない。

そして第3試合にお目当ての金足農(秋田)が登場した。金足農は日本ハム吉田輝星投手の弟・大輝投手(1年)がエースナンバーを背負う。相手は久慈(岩手)。先発は2年生の花田晴空投手。丁寧に打たせて取る投球で3回途中まで2失点。1-2の4回裏、先頭打者に安打を許したところで吉田が登板した。身長は179センチ。175センチの兄よりやや大きい。下半身もどっしりとしている。ユニホームが似合い、パッと見て好投手の雰囲気が漂う。先頭打者を三振、後続も凡打に打ち取り無失点。以降も無失点に抑えると8回に2-2同点。そのまま9回を終えてタイブレークに突入した。10回表、金足農は2死満塁から押し出し四球で勝ち越し。その裏、吉田は送りバントを決められ1死二、三塁。一打逆転サヨナラの場面。次打者の打球はライナーで遊撃手の右へ。しかし「やばい、抜けた」(吉田)と思ったという打球は遊撃手のグラブへ。二塁走者が戻れず併殺で試合終了。金足農が勝った。

吉田は7回を1安打無失点の快投。予想以上の素晴らしい投球だった。兄は高めのホップするような快速球で三振を奪っていたが弟はスタイルが異なる。直球を外角低めに集めスライダーとのコンビネーションで勝負。球速は表示がないので分からなかったが140キロ前後は出ていたのではないか(夏の秋田大会での最速は140キロ)。

試合後「自分はエースとして抑えるしかないので。今日は直球でも変化球でもカウントが取れました」と話した。そして「次も強いチームが相手ですがひるまずに向かっていきたいです」と頼もしかった。

取材を終えタクシーで横手駅へ。電車まで1時間以上時間があったので再び「食い道楽」さんへ。吉田弟の快投を祝って「福小町」という地酒で一杯。前日に続いて横手焼きそばを食べて秋田へ戻った。

10回、最後の打者を併殺に打ち取り、雄たけびを上げる金足農・吉田大(撮影・木村有優)
10回、最後の打者を併殺に打ち取り、雄たけびを上げる金足農・吉田大(撮影・木村有優)

【19日】

こまちスタジアムへ。

第1試合は青森山田が鶴岡東に快勝。そして第2試合、金足農は学法石川と対戦。吉田は7回途中から登板したが連投の疲れからか直球が走らず4安打1失点。1-3で敗れ来春センバツ出場は厳しくなった。

試合後、吉田の目は潤んでいた。

「本調子ではありませんでした。これでセンバツは厳しくなりましたが冬の練習は死ぬ気で追い込んで全試合を1人で任せてもらえるようなピッチャーになりたいです」と声を絞り出した。

兄について質問されると「たまにプレッシャーに感じますが、兄のおかげで応援してくれる方もいるので」と話した。そして「兄はピッチングだけではなくバッティングもすごかった。かっこいいし憧れ。自分もそういう選手になりたいと思っています。今、最速は140キロですが来年145キロを投げられるようにして最終的には兄の152キロを越えられるよう頑張りたい。ストレートの質と気迫は負けたくありません」と淡々と質問に答えた。7歳上の兄は3年夏に甲子園出場し準優勝。弟にはまだ3回、チャンスがある。やや色白な顔と長目のまつげは兄そっくり。この敗戦を糧に兄と同じ甲子園のマウンドへ。再び「金農旋風」を起こして欲しい。

学法石川に敗れ、ベンチに引き揚げる金足農・吉田(左)
学法石川に敗れ、ベンチに引き揚げる金足農・吉田(左)

【20日】

東北大会は休養日。明日21日開幕の関東大会に備え秋田から新幹線で宇都宮へ移動。

宇都宮といえば餃子。この日は20時ころからホテルからオンラインで友人のYさんと恒例の「かわりばんこドラフト会議」を行う予定。ホテル近くの「来らっせ」へ。ここでは宇都宮餃子の有名店、「宇都宮みんみん」「めんめん」「香蘭」「さつき」「龍門」の5つのお店の餃子を食べ比べできる。「さつき」の焼き餃子(360円)をテイクアウト。餃子を肴に秋田で買った日本酒をちびちびとやりながら2人が交互に指名する「かわりばんこドラフト」。今回、私はパ・リーグの担当。守備の名手で大好きな仙台育英・山田脩也内野手を目前で中日(3位)に獲られてしまったが、まずまずの指名ができたと思う。

【21日】

午前7時過ぎの東武電車で県営球場に向かう。約10分で最寄りの西川田駅。ここから徒歩15分ほどで球場に到着。まだ8時前というのに球場周辺はファンであふれかえっていた。この日は2試合とも好カード。第1試合は常総学院(茨城)が9-2で専大松戸(千葉)にコールド勝ち。第2試合は花咲徳栄(埼玉)が8-6で横浜(神奈川)を破った。敗れた横浜・村田浩明監督は「確かな力が無いというか、それがそのままこの試合に出てしまった」と悔しそうに話した。

夏の神奈川大会では決勝で甲子園優勝の慶応に逆転負け。「新チームは慶応戦の負けを引きずってしまって。異様な状態で秋に入りました。(リベンジへの)思いが強すぎて、なかなかうまくいかなかった。チームみんなで話し合って、『納豆のように粘りのあるチーム。ネバネバ、ネバネバと戦おう』と。でも今日の試合でも粘りは見せられましたが、粘りだけじゃ、やはり勝てない。今のままやっても春も夏も勝てない。すべてをつくり直して出直します」

ひと冬越えて、横浜がどんなチームに変貌するか。巻き返しに注目したい。

夜は「オリオン餃子」という店へ。このお店はいろいろな変わり種餃子が楽しめるが基本の「焼き餃子」を注文。1皿420円とちょっと高めだがやや濃いめの味がビールによく合った。

【22日】

県営球場ではなく、もう1つの会場である「宇都宮清原球場」へ。

宇都宮駅から今年開通した「ライトレール」に初めて乗車した。2両編成で車内はゆったり。無料Wi-Fiも使える。途中までは路面電車。約30分で球場最寄りの「清原地区市民センター前」に到着。料金は300円。これまではバスの本数がないためタクシー使わざるえなかった。料金が3000円以上かかり、しかも渋滞に巻き込まれることが多かった。それに比べると格段にアクセスが良くなった。

記者席が使わせてもらえないため一塁側ベンチ上のスタンドに設置された青空記者席で速報作業。天気が良すぎてパソコン画面が見づらい。傘をさして日陰をつくって悪戦苦闘しつつ2試合を乗り切った。電源もなし。重いモバイルバッテリーを持参したが大活躍してくれた。

試合後、再び「ライトレール」で宇都宮駅へ。「来らっせ」は日曜日ということもあり長蛇の列。諦めてドンキホーテの総菜売り場で弁当を買ってホテルで食べた。

宇都宮ライトレール
宇都宮ライトレール

【23日】

県営球場へ。

第1試合は地元栃木の作新学院が帝京三(山梨)に快勝。1年春から注目されていた小川哲平投手が好投した。最速は146キロ。直球の質が素晴らしく140キロ前後のスピードでも空振りやファウル、フライアウトも取れていた。4強入りでセンバツ当確。183センチ、92キロの立派な体格。甲子園では「江川2世」として注目されるだろう。

第2試合は常総学院が花咲徳栄に10-5で打ち勝った。試合後、常総学院の島田直也監督のもとへ。囲み取材が落ち着いて1対1になれたのでそっと右手を差し出した。ホッとした表情でそっと握り返してくれた。島田監督とは日本ハムに入団したときからの付き合い。監督に就任してすぐにセンバツ出場したがその後はなかなか結果が出ずに苦しかったと思う。天真らんまんな明るい男から笑顔が消えて心配していた、まずはセンバツ当確おめでとう。

宇都宮最後の夜ということで「来らっせ」で今回は「香蘭」と「龍門」の焼き餃子をテイクアウト。これで餃子も食べ納め。

【24日】

県営球場で準々決勝残り2試合。

第1試合は健大高崎(群馬)が中央学院(千葉)に4-3で競り勝った。第2試合は山梨学院が桐光学園(神奈川)に3-2で逆転勝ち。前日4強入りを決めた作新学院、常総学院に加え、健大高崎と山梨学院が4強入りを決めセンバツ当確。残る1校は東京のチームとの比較となるが、果たして中央学院か桐光学園か。悩ましい。

試合後、電車で東武宇都宮へ移動。小腹が減ったので駅近くにある謎の焼そば専門店へ。初日に店の前を通って気になっていたが店の名前が分からない。帰京後、ネットで調べたら「やきそば安藤」というお店らしい。昭和の雰囲気が漂う小さなお店。メニューは焼そばのみで大(300円)並(250円)小(200円)の3種類。具はキャベツだけ。並を注文した。もちもちの太麺にソースがよく絡む。5分ほどで平らげた。ホテルに預けた荷物を拾ってJR宇都宮駅へ。新幹線で帰京。8泊9日の長い出張が終わった。

宇都宮で食べた焼きそば
宇都宮で食べた焼きそば