シーズンの約6分の1を消化した時点で首位に立つ。それもどん底の状態を脱してからの右肩上がり。これが阪神の底力…。現在、連勝も更新中で、4月24日の雨の横浜で9回逆転劇。これで7連勝である。

この連勝中に引き分け試合が2度もある。監督の岡田彰布はこれに胸を張る。確かに勝ちきれなかったこともあるけど、負けないチームになっていること。これがデカい。

例えば24日の試合。8回を終わった時点で2点差をつけられていた。この間、雨は間断なく降り続け、いつゲームが終わっても不思議でない状況。相手も勝ちゲームの継投に入り、タイガースにとって絶望的な展開で、見事にひっくり返した。「ホンマ、たいしたもんよ」。この試合は逆転したけど、チームには最後まであきらめない心が確実に宿っている。

それが引き分け2試合に表現されている。まだ開幕から23試合を終えたところで引き分けが3試合。巨人と並び最も多いドローは、阪神には喜ばしいデータとなる。ちなみに日本一になった昨年。143試合のレギュラーシーズンで阪神の引き分けは5試合。これだけでも今年の引き分け数は特別なペースといえる。

「よく引き分けについて勝てなかった…とか、負けなかった…とかの印象を持つけど、引き分けは引き分けよ。これを生かすのも戦う上において重要になってくるんよ」。これが岡田の引き分け論。シーズンの順位を決めるのはあくまで最終勝率。勝ち数で競うものではない。そんなことはファンも百も承知で、そうなれば引き分けを生かすには勝率を5割以上に保つこと。それがドローを生かす最良策になる。

阪神ファンには記憶に残るシーズンがある。3年前の2021年。阪神はわずかな差で2位で終えた。優勝したヤクルトの勝ち数は73。阪神はというと77勝。リーグ最多の勝ち数を積み上げながら、優勝できなかった。それは引き分け数の差による勝率のマジックだった。阪神の引き分け10に対し、ヤクルトは18。これによってゲーム差は0なのだが、勝率では5厘の違いが生まれた。

このシーズンはコロナ禍で特別規定が設けられた。延長戦はなく9回打ち切り。当然、引き分けが増えるだろうとの予測通り、異常なドロー数になり、これをヤクルトが生かして優勝。阪神にとって悔いる引き分け数の差になった。

すでに3度の引き分けがあるけど、3年前ほどの数にはならない。それでもこのドローを有効に使う術を岡田は長年のキャリアから熟知している。「勝てなくても、負けないことよ。それがいずれ優勝争いで5割以上の勝率なら、絶対にプラスに作用するわけやからな」と、接戦の戦い方に絶対の自信を持っている。

強みはなんといっても強力なブルペン陣だ。勝てなくても、負けない投手陣を擁し、負けない継投に打って出る。引き分け=阪神の戦い方。これは決して揺らぐことはない。【内匠宏幸】(敬称略)