「しんどい試合やのう…」。囲み取材が終わり、虎番キャップの輪から抜け出した指揮官・岡田彰布がそうつぶやいた。見ている方でもしんどいのだから、やっている方はなおさらだろう。2試合連続の逆転、さらに1点差勝利である。首位・阪神の貯金は、これで「5」となった。

大山悠輔の“神風安打”を含め、分岐点はいろいろあったと思う。そんな中、終盤に大きく流れを阪神に引き寄せたのは梅野隆太郎の補殺ではないか。「おお。あれは、おまえ、めちゃくちゃおっきいよ。流れがあるからのう」。岡田もそう話したポイントだ。

1点ビハインドの7回表。2イニング目に挑む加治屋蓮が丸山和郁に四球を出した。そして次打者・村上宗隆のカウント1-1から加治屋がカーブを投げたときに盗塁を敢行。これを梅野がドンピシャのタイミングで刺した。

「もちろん警戒はしていました。自分の中でもベストボールが投げられたのでよかったですね。加治屋が2イニング、切ってくれたし。それが逆転につながったかな、とは思います」

波に乗りきれなかった先発・才木浩人からの3投手をリードした梅野はそう振り返った。自身も4回に二塁打、6回に左前打と今季初のマルチ安打をマーク。これは昨年8月3日の中日戦以来のことだ。

この日は糸原健斗が今季初のスタメンで猛打賞の活躍。ベテランと呼ぶには少々若いが、すっかり若返ったチームでは30代が中堅なのは間違いない。そんな2人の活躍が光ったのは長く応援している虎党にはうれしいことではないか。

結構、特別な試合だったと思う。佐藤輝明が今季初のスタメン落ち。遊撃のレギュラーを張ってきた木浪聖也も2試合連続で出場しなかった。ここで落とせば、なんとなくイヤなムードが流れるかもしれない。

そこを取れたのはなかなか大きいのである。梅野も昨季、苦しんだ。誰でも悩むもの。そういうときはシンプルに戻ることが一番かもしれない。

「ストライクを打ってくれたらいい」。佐藤輝明に対し、岡田がテレビを通じてアドバイスしたのもそういうことだと思う。いずれにせよ、全員の力がなければ球団初のリーグ連覇はかなわない。それだけは間違いないのだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対ヤクルト 岡田監督(左)と笑顔でハイタッチをする大山(撮影・上田博志)
阪神対ヤクルト 岡田監督(左)と笑顔でハイタッチをする大山(撮影・上田博志)