佐藤輝明がセーフティーバントを試みた。1点リードの7回2死走者なしでまわったのは2年ぶりに3番に入っていた佐藤輝。そこで左腕・大江竜聖の投げた初球を三塁前に転がした。ファウルになったが、一瞬、球場がどよめいた。

是非は置いて、まず状況を考える。試合展開的には納得できる面もあった。5回に1点差に迫られたまま打線は得点できていない。連敗中でもあり、流れ的によくなかった。

「塁に出れば…」。佐藤輝がそう考えてもおかしくはない。試合の流れを理解している。ズバリ決まれば相手も動揺したろうし、安打は安打。全否定することではないかもしれない。そこまで言って、決めつけるのもなんだが書きたい結論は違う。「何をしてまんねん?」ということだ。

その瞬間、モニターに映し出された指揮官・岡田彰布は明らかに苦笑していた。試合後は「勝手にやったんや。出すか。そんなん」。自分が出したサインでないことを否定した。

岡田を含む大多数の人は佐藤輝にバントで出塁してほしいと思っていないはず。人並み外れたパワーの持ち主には、それなりの打撃を期待する。「この打席で日本一が決まる」などという状況なら意表を突くバント作戦もあっていいかもしれないが、さすがにそういう場面ではない。

佐藤輝なりに考えてのことだろう。何かひらめいたのかもしれない。3回に適時打を放っていたが、正直、打撃好調とは感じてはいないはず。気分転換の意味もあったかもしれない。それでも、そこは踏みとどまってほしいと思う。佐藤輝なら、ズバリ、あそこは一発を狙う場面だろう。

敗戦の4日。一部で同点の9回無死一塁で5番起用していた糸原健斗が強行したことに異論が出ていた。犠打なら一死二塁になったのに…ということだろう。誰が何を言ってもいいが、そこには「クリーンアップの犠打はない」という、岡田の基本的な考えへの視点が抜けていると思う。

選手にはそれぞれの立場でそれぞれの仕事を期待する。2番、下位打線ならバントは必須。主軸には「打て」だ。普段は代打中心の糸原であろうと5番で使えば安打を期待する。そういうことだろう。佐藤輝への期待がバント安打でないことも明白なのだ。うまくいかない時期、苦しいときがあっても目指すべきが何なのかは変わらない。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

巨人対阪神 7回表阪神2死、バントを試みる佐藤輝。投手大江(撮影・足立雅史)
巨人対阪神 7回表阪神2死、バントを試みる佐藤輝。投手大江(撮影・足立雅史)
巨人対阪神 1回表阪神1死一塁、左飛に倒れた佐藤輝(手前)を見つめる岡田監督(後方中央)(撮影・足立雅史)
巨人対阪神 1回表阪神1死一塁、左飛に倒れた佐藤輝(手前)を見つめる岡田監督(後方中央)(撮影・足立雅史)
巨人対阪神 8回表を終え選手交代を告げる岡田監督(撮影・加藤哉)
巨人対阪神 8回表を終え選手交代を告げる岡田監督(撮影・加藤哉)