4月期の春ドラマが出そろった。各局で記憶喪失キャラが乱立する怪現象が話題だが、見応えにはバラつきがある印象だ。勝手にドラマ評58弾。今回も単なるドラマおたくの立場から勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(深夜枠、シリーズものは除く)。

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月9ドラマ「366日」(C)フジテレビ
月9ドラマ「366日」(C)フジテレビ

◆「366日」(フジテレビ系、月曜9時)広瀬アリス/眞栄田郷敦

★★☆☆☆

会えなくなった人への思いを歌ったHYの「366日」(08年)に着想を得たラブストーリー。フタを開ければ、同窓会での再会、幸せの絶頂で事故などのテンプレワールドの感。曲のファン世代以外には間口が狭く、2作連続で女性が男性のために夢を捨てて自己犠牲という、男性目線の女神趣味もつらい。キャストが高校時代も演じるのは最近のトレンドだが、再現ドラマみたいで没入感が切れがち。ヒット曲題材で高校時代回想なら、きちんと演者を分けた「First Love初恋」の八木莉可子×木戸大聖の方が正解だと思う。昏睡(こんすい)から目覚めた眞栄田郷敦くんが今期4、5人いる記憶喪失の仲間入り。

月10ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」(C)フジテレビ
月10ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」(C)フジテレビ

◆「アンメット ある脳外科医の日記」(フジテレビ系、月曜10時)杉咲花/若葉竜也

★★★★★

1日で記憶がリセットされてしまう脳外科医の医療ヒューマンドラマ。記憶を覚え直す毎朝のルーティン、医師としての葛藤、屋上での悔し泣きなど、抱えたものの奥行きを杉咲花が体温込めて立ち上げ、ひたむきでキラキラした読後感に勇気をもらう。米国帰りの敏腕、三瓶先生の若葉竜也。「記憶はなくても目の前の患者は診られますよね。あなた医者なんだから」。合理主義者の突破力や、立てる波風に不思議な温かみがあり、ヒロインの今後にどう動かすのか興味が沸く。原作は三瓶先生が主人公だが、連ドラとしてはこちらの方が希望と成長がすっきりはまり、原作の志と世界観もそのままある。

連続ドラマ「Destiny」(C)テレビ朝日
連続ドラマ「Destiny」(C)テレビ朝日

◆「Destiny」(テレビ朝日系、火曜9時)石原さとみ/亀梨和也

★★★☆☆

愛する人は敵陣営の人。描きたいのは石原さとみ×亀梨和也の「ロミオとジュリエット」であって、20年前の父親の死、気絶するほど長かった大学時代の回想など、テンポの悪いお膳立てが2話まで続いてあせった。恋愛に振り回されて自立できない女性像、検事としての仕事の甘さなど、仲村トオルに「お粗末」と断じられてしまう弱点だらけのヒロインではあるが、ずるずる進む結婚話へのブルーな笑顔、根っからの劣等感など、流されやすい人の心の動きを石原さとみが丁寧に見せてくれる。先が読めるので個人的には脱落しそうだが、ドロドロな純愛が好きな人にはおすすめ。

火曜ドラマ「くるり~誰が私と恋をした?~」(C)TBS
火曜ドラマ「くるり~誰が私と恋をした?~」(C)TBS

◆「くるり~誰が私と恋をした?~」(TBS系、火曜10時)生見愛瑠/瀬戸康史/神尾楓珠/宮世琉弥

★★★★☆

事故で記憶を失ったヒロインと、3人の元カレ候補の四角関係ラブコメ。複数メンズで推しを作る定番戦略の中に、自分らしさを探すヒロインの成長物語がうまくブレンドされていて、ラブ派もお仕事派も楽しめるバランスのいい作品。「つまんない服着て、少しズルして頑張ってきた」。分かってきたこれまでの自分への落胆と、着たい服を初めて買った1歩の輝き。愛想笑いからうれし泣きまで、自分に言い訳しないヒロインの輝きをめるるが端正に演じる。瀬戸康史、神尾楓珠、宮世琉弥がどれも見守り系で推しを決めづらいが、3人が見せるかすかな不穏にどんなミステリーが隠されているのか期待。

水10ドラマ「ブルーモーメント」(C)フジテレビ
水10ドラマ「ブルーモーメント」(C)フジテレビ

◆「ブルーモーメント」(フジテレビ系、水曜10時)山下智久/出口夏希/水上恒司

★★★★☆

山下智久が5年ぶりに民放ドラマ主演。特別災害対策本部(SDM)を率いる気象学の天才という知性派リーダーはよくハマるし、この人がリュック担いでヘリに乗るだけで「コード・ブルー」な安定感。多方面の反発の中でのチームの船出も「TOKYO MER」みたいで、チーム戦としても応援しがいがある。「奇跡は準備するもの」「こんなことになると思わなかった。これを言わせたら負け」。マンガ原作らしいスカッとするせりふ、気象豆知識などわくわくが隅々に。大自然や日の出前の美しいブルーモーメントな空など、気象テーマらしい広々とした映像は今期貴重。

木曜ドラマ「Believe-君にかける橋-」(C)テレビ朝日
木曜ドラマ「Believe-君にかける橋-」(C)テレビ朝日

◆「Believe-君にかける橋-」(テレビ朝日系、木曜9時)木村拓哉/竹内涼真/天海祐希

★★★★☆

「龍神大橋」崩落の責任をとって服役中のゼネコン部長が、妻の余命宣告を機に、無実と再審を訴え行動に出る。橋建設の話かと思ったら、監獄ドラマでびっくり。人災を事故として隠蔽(いんぺい)した自業自得に引っかかるものの、持ち前のリーダーシップで刑務所内に仲間を増やし、脱獄して権力に挑んでいく流れは手堅い。外れたケーブルが生き物のように人を襲っていく崩落CGはすごい迫力で、土木という大スケールの世界と、刑務所という閉鎖空間の対比も効く。キムタクと天海祐希のキャラが強すぎて夫婦に見えない問題。上川隆也の「存在を反省しろ」は今期のせりふ賞。

木曜劇場「Re:リベンジ-欲望の果てに」(C)フジテレビ
木曜劇場「Re:リベンジ-欲望の果てに」(C)フジテレビ

◆「Re:リベンジ-欲望の果てに-」(フジテレビ系、木曜10時)赤楚衛二/錦戸亮

★★★☆☆

巨大病院の権力闘争に巻き込まれ、父親も地位も恋人も失った御曹司の復讐(ふくしゅう)。格調高い映像で本格路線の味わいはキープしているが、医学を離れて週刊誌記者をしている主人公が事件の真相を暴いていくミステリーという感じで、公式HPの「怪物のような野心と復讐心」とはちょっと違うかも。むしろ、数奇な運命で立ちはだかる謎の医師、錦戸亮の方が、敵か味方か分からない孤独なオーラで毎回敵を葬っていて、怪物感がすごい。3話で主人公が広報として病院に入り込み、やっと2人の対決が動き出した。復讐に向かない好青年が敵にどう向かっていくのか、幼少期の真相とともにもう少し見る。

金曜ドラマ「9ボーダー」(C)TBS
金曜ドラマ「9ボーダー」(C)TBS

◆「9ボーダー」(TBS系、金曜10時)川口春奈/木南晴夏/畑芽育

★★☆☆☆

19歳、29歳、39歳の節目を迎えた3姉妹の幸せ探し。3つの価値観を描ける設定だが、全員男性の支えを渇望している自己憐憫(れんびん)キャラばかりで好みとは違った。美人で仕事もできる強め女子(川口春奈)が、初対面の路上シンガー(松下洸平)に「本当はさみしい?」と優しく励まされて泣く。強く見える女性は本当は弱くなきゃいけないという日本ドラマの法律が根深く、前期の「ふてほど」がこじ開けた価値観新時代が逆戻り。路上シンガーはまたもや記憶喪失設定。何にも縛られない人の自由さは、自力でつかみ取った人で描いて欲しかった。レトロかわいい内装とオフィスファッションはすてきです。

土ドラ9「花咲舞が黙ってない」(C)NTV
土ドラ9「花咲舞が黙ってない」(C)NTV

◆「花咲舞が黙ってない」(日本テレビ系、土曜9時)今田美桜/山本耕史

★★★★★

「花咲舞」を令和にアップデートした新シリーズ。支店を回る「臨店班」のヒロインが、問題を解決しながら組織の闇にモノ申す。花咲舞の馬力に今田美桜がよくハマり、令和によみがえる「お言葉ですが」の切れ味にわくわく。度胸と正義感だけでなく、優秀な元テラー(窓口)の視点でこつこつ調査していく仕事ぶりがこの人のいいところ。あきらめない花咲舞と、出世をあきらめた上司、相馬(山本耕史)の凸凹バディ。互いにないスキルが生み出す突破力、グルメシーンのほっこり感も期待通り。今期唯一のお仕事もので、閉塞(へいそく)する時代に「黙れ!」「黙りません!」の勧善懲悪がひときわ痛快。

◆「街並み照らすヤツら」(日本テレビ系、土曜10時)森本慎太郎/月島琉衣

★★★☆☆

倒産ピンチの家業(ケーキ屋さん)を守るため、保険金目当ての偽装強盗に手を染めた32歳店主のてんてこ舞い。「ウチも」と追加依頼がシャッター街に連鎖していくコメディー展開はなるほど感があり、巻き込まれ型主人公の出たとこ勝負を応援できる。「セクシー田中さん」問題を受けて予定作品が見送られ、突貫工事の制作。脚本を補強する解説ナレーション、必要最小限のセットなど苦労がにじむが、逆にテーマ集中でまとまってはいる。走りながら、何か光るものが見えてきそうな余地あり。この枠を引き受けた森本慎太郎くんのガッツを上乗せして星3つ。

日曜劇場「アンチヒーロー」(C)TBS
日曜劇場「アンチヒーロー」(C)TBS

◆「アンチヒーロー」(TBS系、日曜9時)長谷川博己/北村匠海

★★★★★

大事なのは真相ではなく勝つことという無敗弁護士モノ。「殺人犯をも無罪にする」という領域に踏み込んだのは新しい。冤罪(えんざい)や死刑制度の裏テーマを問いかけつつも、展開に次ぐ展開でエンタメとしてちゃんと面白い日曜劇場印。長谷川博己がものすごいせりふ量で主人公の戦闘力、法曹哲学を表現していて、「弁護士は検察が出してくる証拠を握りつぶせばいいんだ」とか、もはや当たり前のことすら名言っぽい。うその法律でチンピラ撃退など小さな機転もあざやか。3話でやっと検察が強くなり、主人公の強さがよりくっきり。倫理的に賛否があるのはいいことで、背景にある過去も分厚くお願いしたい。

日曜ドラマ「ACMA:GAMEアクマゲーム」(C)NTV
日曜ドラマ「ACMA:GAMEアクマゲーム」(C)NTV

◆「ACMA:GAMEアクマゲーム」(日本テレビ系、日曜10時半)間宮祥太朗/田中樹/古川琴音

★★★☆☆

父親を奪った「悪魔の鍵」の秘密を探るため、命がけの「アクマゲーム」に身を投じた元御曹司の戦い。「カイジ」や「遊戯王」のほか、魔物登場は「デスノート」、イケメンの頭脳戦は「ライアーゲーム」、時には昭和な遊びの「イカゲーム」など、それぞれ薄めて合わせた感じで、ある意味気楽に楽しめる。ゲームマスターの召喚獣もちょっとコミカルで、負ければ死といっても結局は人助けの終わり方なので、キッズ層含めてファミリー向け。3話は寡黙な間宮祥太朗×C調な竜星涼の心理戦で画面が一気に華やかに。黒幕サイドの謎もいろいろありそう。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)