20年は“本盗”の虎だ! 矢野阪神が相手バッテリーの意表を突いて本盗を決めた。練習試合DeNA戦の7回2死一、三塁。左腕桜井に対し、一走高山のスタートと同時に三走陽川が本塁へ突入し、ビックプレーを決めた。昨季リーグ最多の100盗塁を決め、さらなる超積極走塁を目指す矢野阪神の象徴的奇襲。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で4月24日の最短開幕まで1カ月あるが、高い意識でライバル球団に脅威を見せつけた。

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三走陽川は狙っていた。1点を追う7回2死一、三塁。打者小野寺の場面で、阪神ベンチが奇襲を仕掛けた。カウント1-2でセットポジションの3番手左腕桜井に対し、視覚に入る一走高山がスタート。桜井はプレートを外して一塁に投げかけたが、時すでに遅し。同時に死角から忍び足でスタートを切っていた陽川は、三本間途中まできていた。背後の動きに気づいた桜井は慌てて本塁へ悪送球。プロ6年で5盗塁の28歳が、まさかの本盗で会心の同点ホームに滑り込んだ。

矢野監督の代名詞の「超積極走塁」は今季、さらなる進化を目指している。2軍で指揮した18年はリーグ新の163盗塁をマーク。1軍監督1年目の昨季は前年から23個増やし、リーグ最多の100盗塁を決めた。だがこの日、ビッグプレーを決めた陽川の売りは打撃で、足が速いイメージはない。だが、どの選手にも貪欲な走塁意識が染みついている。陽川は本盗サインの場面について「そういうこともある」と落ち着いて反応。「しっかり頭に入れて準備していきます」。シーズンでも、もう一丁の意気込みだ。セ界のライバルDeNAを驚かせ、驚異の足をインプットさせた。

進化した走る虎。指揮官は「陽川、もともと走塁いいからね」と会心だ。途中出場から安打も放った背番号55に「ああ見えて足速いし、走る意欲もあるし、準備もできている。打つだけじゃない。そういうところはプラスアルファの魅力として、どんどんやってくれたら」と期待を膨らませた。

開幕は最短1か月後とさらに延びて不透明な状況だが、陽川は冷静に言った。「今はしっかりモチベーションを高く持って。開幕した時に今の状態でいけるように、しっかり準備していきます」。今年はホームスチールも狙う。陽川も走る。開幕延期の時間を使い、足攻めにも磨きをかける。【奥田隼人】

▼阪神陽川が、練習試合のDeNA戦の7回にホームスチールを仕掛けて成功させた。昨季は広島の菊池涼が8月に2試合連続で成功させるなど、12球団で本盗は9回あったが、公式戦で阪神の選手が本盗を決めたのは、16年4月5日巨人戦の横田が最後。このときも3回1死一、三塁から、一塁走者ヘイグが二盗を仕掛け、捕手の二塁送球を見て三塁走者横田が本塁を陥れた重盗だった。