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田中麗奈、逃げたくなる重圧はねのけた
これまでにないプレッシャーに体が震えたという。田中麗奈(27)は、主演映画「夕凪の街 桜の国」(佐々部清監督、28日公開)のラストシーンの撮影前日、天井がぐるぐる回って見えるほど追い込まれた。2部構成の作品が、田中演じるヒロインが流す涙によって1つにまとまっていく重要な場面だった。撮り終えた瞬間、その場に崩れるように号泣した。来年はデビュー10周年。大きな壁を乗り越えて、さらなる飛躍のきっかけをつかんだ。
「カット! OK!」。佐々部監督の声が響くと田中は両手で顔を覆い声を上げて号泣した。スタッフの拍手が耳に届き、ようやく笑顔に戻った。
映画は被爆13年後の悲劇と、田中が登場する現在の2部構成。家族に被爆者がいると知ったヒロインに父がそっと語りかける。その言葉を聞いてある決意を抱いた瞬間、涙がこぼれるというラストシーンだった。
撮影当日1週間前、広島ロケ最終日。同監督から「ところであのシーン、どうなるんだろうね」と突然言われた。緊張感を持続させようと言った言葉だったそうだが、ずっと気になっていただけに「押しつぶされそうになりました」。
撮影前日。仕事帰りの車中で天井がぐるぐる回り始めた。1部で描かれた家族の苦しみが、今も続いていることを浮き彫りにする2部。「ラストシーンの自分の演技によって作品を壊しかねない。どうしよう」。激しく動揺した。これまで数多くの映画に出演し主演も務めてきた。「プレッシャーに強いはずなのに」。震えが止まらなくなった。「逃げ出したくなった」。初めての経験だった。
撮影当日は「自由にやってください」と言われた。「悪いことをして流す涙じゃない。だから上を向いて泣こう」。それだけ考えて撮影に臨んだ。
クランクイン前には両親と広島を訪れた。原爆ドームや資料館で衝撃を受けた。この自然に入ってきた感情をそのまま役に反映した。ラストシーンになって「その思いがわき出てきて胸がいっぱいになった。涙は演技ではなく、感情を揺さぶられた自分の気持ちから出てきたような気がして少し恥ずかしかった」。
来年はデビュー10周年。重圧のラストシーンを撮り終えて「役者ってすごい仕事ですね」と初心に帰るような気持ちを味わった。飛躍のきっかけになる涙になりそうだ。【松田秀彦】
[2007年7月27日7時53分 紙面から]
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