ヤクルト由規プロ初完封!成長の夏「1人1人」/復刻

2010年8月6日付日刊スポーツ紙面

<日刊スポーツ:2010年8月6日付>

 プレーバック日刊スポーツ! 過去の8月6日付紙面を振り返ります。2010年の1面(東京版)は由規のプロ初完封でした。

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<ヤクルト5-0中日>◇5日◇神宮

 いよいよホンモノだ。ヤクルト由規投手(20)が中日を5安打8三振に抑えてプロ初完封で7勝目。プロ初完投勝利を飾った前回登板(7月29日)でマークした自己最速タイ158キロを7回に計測する一方、スライダーもウイニングショットとして活用した。日本ハム中田、ロッテ唐川と並んで「高校ビッグ3」と称された夏から3年。弟の仙台育英・佐藤貴規外野手(3年)は明日7日開幕の甲子園で注目の選手として成長。佐藤家の夏がやってきた。

 予想外の幕切れに、由規は思わず叫び、右手には拳をつくっていた。「ヨッシャー!」。9回1死一塁、148キロで代打野本を二ゴロ併殺に仕留めてゲームセット。「1人1人と思っていたので、まさかゲッツーで終われるとは…」。先輩に次々と頭をたたかれ、喜びがこみあげてきた。お立ち台では「まだ興奮していて、言葉が出ないんですけど…」と目が泳いでいた。ようやく我を取り戻すと「最高にうれしいです!」と絶叫した。

 前回登板の広島戦では、142球でプロ初完投勝利を挙げたばかり。「こないだ完投して、次に完封できるとは思ってなかったので、自分でもビックリしています」。1四球で、三塁を踏ませない投球。走者を出しても4併殺でしのいだ。納得の126球だった。

 自慢の剛速球が、うなりを上げた。前回、日本人最速タイの158キロをマーク。この日も7回2死、外角低めワンバウンドとなったブランコへの4球目に158キロを計測した。実に41球が150キロ超。しかしスピードよりも、勝利を意識するのはいつものこと。「前回の投球を利用してやろうじゃないけど、相手にストレートへの意識があると思ったのでスライダーを多めに投げた」と振り返る。5回までは16人中、半分の8人を直球で料理。6回からは7人をスライダーで仕留め、ウイニングショットをスイッチした。剛球ショーと並行して3年目らしからぬマウンドさばきを見せつけた。

 160キロという未知の領域に近づいているが、見た目はスリムな体形。高校時代から「こんな細い腕で投げてるの」と驚かれるほど、腕は細い。入団当時から知る菊地トレーナーも「上半身は柔らかいけど、股(こ)関節が硬い。どうしてあれで速い球が投げられるのか」と首をかしげる。しかし生まれつきの左利きが役立っている。中、高時代の専属トレーナー石川裕治さん(48)は「両手を使うことで脳の運動神経が活性化されるのでは。体のバランス感覚が養われるからムダな動きのないフォームができるのでは」と明かした。

 今季7勝目で、目標の2ケタ勝利も見えてきた。日本ハム中田は4本塁打を放ち、ロッテ唐川も故障から2軍戦で復帰したばかり。かつて「高校ビッグ3」として注目されたライバルの存在に「気になってます。同学年なのですごく刺激になる」とライバル心をのぞかせる。チームも3位中日に3連勝し、その差は5・5ゲーム差。「中日に勝たないと、上には近づけない。長いイニングを投げることは、投手の役割として間違いないので」。20歳の右腕は、まだまだ大きな可能性を秘めている。

※記録や表記は当時のもの