西武浅村、封印解除のフルスイング「キセキです」

2回裏西武2死一、三塁、浅村は通算100号となる左越え3点本塁打を放ち、バックステップしながらボールを見つめてバットを投げ捨てる(撮影・松本俊)

<西武7-5ソフトバンク>◇20日◇メットライフドーム

 久々に、リミッターを解除した。2回裏2死一、三塁。西武浅村栄斗内野手(26)は、ソフトバンク先発中田の141キロ直球を、フルスイングでとらえた。カウントは3ボール、ノーストライク。しかし、ためらいはなかった。

 「真っすぐだけじゃなく、変化球でも真ん中付近に来たら振ろうと決めていました。決してバッティングカウントじゃなかったですけど、とにかく投球次第でした」

 打った瞬間、それと分かる本塁打。豪快なフォローの勢いで、一塁に向かって軽くバックステップしながら、バットを高く掲げて打球の行方を確認した。

 会心の一発は、左翼席上段に弾んだ。浅村は「まあ、キセキですよ」と笑った。単なる謙遜ではない。「今年は本塁打は打てない年だと思っていたので」。そう続けた。

 「今シーズンはとにかくたくさんヒットを打つ。そしてチャンスで走者をかえす。そう意識してやってきました」

 浅村を主将に任じた辻監督が、付け加えるように説明する。

 「今季はずっとチームバッティングに徹してくれていた。久々に彼らしいバッティングだった」

 フルスイングが持ち味だが、今季は状況に応じてコンパクトなスイングに切り替えてきた。ややつまり気味でも、一二塁間をしぶとく破り、得点圏の走者をホームに迎え入れる。

 そうやって、ここまでリーグ最多57安打、そして39打点を稼いできた。

 ちょうど1試合1打点ペース。これを上回る例を求めれば、パ・リーグなら85年落合までさかのぼることになる。

 リーグ最多184得点を挙げる好調な打線の象徴が、伝統の背番号3を背負う男だ。それでも浅村は「長いシーズン、打てる時もあれば、打てなくなる時もあります」と冷静に言う。

 言葉数が多い方ではない。結果を示すことで、チームを引っ張るタイプの主将。周囲はそう見る。

 だが本人は首を振る。「結果で引っ張る、というのは少し違います。自分は覚悟を持って野球をしている。覚悟で引っ張る主将でありたいと思うんです」

 ◇   ◇

 覚悟がにじむプレーがあった。

 17日、ロッテ戦。同点で迎えた、4回表1死満塁の場面で、浅村は打席に立った。

 追い込まれた浅村は、低めの変化球になんとか食らい付いた。しかし打球は勢いを欠き、遊撃手平沢の守備範囲に転がった。

 6-4-3の併殺なら勝ち越せない。浅村は懸命の走りから、最後は一塁へヘッドスライディングし、間一髪でセーフになった。

 二塁で封殺されると同時に、一塁上を確認した秋山は「驚きました。ハッとした」と振り返る。

 「確かに負けられない試合でした。ロッテは勝てていなかったから、次にソフトバンク戦があることを考えても、どうしても勝っておきたかった」

 3点を先制されて、何とか追いついた直後だった。点が入らなければ、シーソーゲームに持ち込まれ、勝敗が読めない状況になる。

 「あの1点は大きかった。それが浅村にはよく分かっていたのだと思います。絶対に勝ちたいという気持ちが伝わってきた。実際、あれが決勝点になった。ボールを前に飛ばしさえすれば何とかなる。そういうことも教わった気がします」

 チーム最年長の渡辺直も「久々に鳥肌が立った」と言う。たとえ思うような打撃ができなくても、何とかしてチームを勝ちに導く。浅村が示したのは、まさに「覚悟」だった。

 浅村はそうやって、こだわりだったフルスイングよりも、チームの勝利を優先させてきた。

 本塁打の場面、カウントはノースリー。本来なら打ちにいく場面ではない。

 しかし変化球が3つ続けてボールになったことなどを鑑み、直球が甘いコースに来る可能性が高い状況を踏まえ、1球限定でリミッターを外した。

 フルスイングで放物線を描く、久々の快感。節目の100号本塁打とあって、満員のスタンドからの祝福の声にも包まれた。チームに尽くしてきたご褒美のような瞬間だった。

 それでも浅村は「これをきっかけに、オーバースイングにならないように。それだけは気をつけます」とすぐに表情を引き締める。

 調子は揺らぐ。結果も揺らぐ。だからこそ、揺るがぬ覚悟でシーズンを戦い続ける。チームを引っ張る。【塩畑大輔】